(08/03/12)
XBRL、RECAP、ディフィーザンスそしてノックイン
=投信評論家・寺田幸弘氏=
 内外の株価が大幅に下げた。加えて、円が対ドル値を上げた。日本の投資家にとっては国内株の下げはその分損失であり、ドル建て株式や債券を円安水準で取得している場合、価格の下げと為替損と二重に被害を受けている。アメリカの大手証券会社の一つは、このサブプライム騒動の前にすべて手を引いていたというから、今ほぞをかんでいる連中が暗愚であったということなのだろうが、しかし、それにしてもその悪影響はいまだ広がりをみせているから困ったものである。食品ではないが、だめなものはいかに加工しても、所詮(しょせん)だめであるということを我々は認識すべきである。
 メリルリンチやシティグループ同様、野村ホールディングスも経営陣が責任を取るかたちで退陣した。過去の失敗が教訓になっていなかったというべきであろう。大手銀行グループでも巨額の損失を被っている。金融行政の恩恵を受けているから深刻ではないが、望むらくはその損失分が預金者や顧客への還元なり、技術を持った中小企業への貸し付けに回っていたならばと思わずにはいられない。
 本稿では、この1カ月の資本市場で注目すべきであると思うことを4点取り上げた。
 XBRL、RECAPITALIZATION、DEFEASANCE、KNOCK−IN投信である。

1)XBRL
 正直なところ、筆者はこのコンピューターソフトウェア言葉なるものについて、知識は極めて稀薄である。要はこのXBRLで当局への報告書、届出書が企業から提出されれば、それを閲覧する例えば投資家は、提出された資料を自在に加工・利用しうるというのである。アメリカでは2005年4月からテストが始まっている。SECは今年2月中旬、投資家の利便のために4つのサービスをウェブサイトに掲載した。財務諸表異期間の比較を可能にするもの、財務データをグラフ化し図式化するもの、異企業の役員報酬の比較、そして投資信託のリスク・リターン分析の比較である。投信については、近い将来にサービス開始としているが、パソコン利用の上手な人には情報の収集が大いに向上するようである。日本においては、このXBRLが08年度から、有価証券報告書、四半期報告書、有価証券届出書を対象に、金融庁によって義務付けられる。

2)リキャップ債
 自己株式を受け入れ、債券を代わりに発行する。それが一般的手法であるが、2月末にヤマダ電機の資本構成変更の試みは、発行されるのは転換社債で、自社株は市場内(立会内と立会外)で手当てする。資本コストとしては、株式のコストは高く、社債のコストは通常低い。よって平均資本コストは下がることによって財務構成の適正化が図られることになる。社債の比重が株式資本より大きすぎる場合はレバレッジが高くなるが、業績不振の場合は債務返済負担で安定性が損なわれる。株式資本が大きすぎる場合は、総資本コストが高くなり業績向上のプレッシャーが大きくなる。その中間に最適構成比があるものである。
 日本企業の事業債はあまり発行されない。銀行借り入れが証券発行によって置き換えられるようになれば、こうした資本コスト理論による財務戦略が普及するであろう。本事例では転換社債であるが、債券、優先株、普通株等の資本戦略が検討されるであろう。相前後して、JFEホールディングスが転換社債発行、自社株買いを発表した。JFEの場合は第三者割当(銀行に)であって買収防衛策の気味があり、ヤマダ電機のケースとは異なっているが、近年盛んであったMSCBという「不健全なフィナンシング離れ」であれば好ましいものだと言ってよい。

3)ディフィーザンス
 これは発行済みの債券の償還に備え、小さい額面で高いクーポンの付いた債券を購入し、購入したものを信託して自己の債券の償還を確保する。確保されたことにより自己の債券はバランスシートから外しバランスシートを軽くする。1982年にエクソンが2009年償還の社債(低クーポン)に対応して額面の小さい高クーポンの国債を信託して自己の社債をティフィーズしたことから始まったという。この方法を武富士が活用したが、信託したのが仕組み債で、この仕組み債がサブプライム騒動で評価が急落、意味を持たなくなり、2022年償還の社債、300億円相当の損失を計上すると報じられた。手法は合理的だが、仕組み債というものでなく、一級の債券を採用しなかったことが悔やまれよう。奇をてらう金融商品について、資本市場は真摯に反省すべきではなかろうか。

4)ノックイン投信
 株価指数の急落で、元本確保型・預金より高率の分配付・株価指数連動(ノックイン後)型投信が、元本確保に黄色信号だという。単位型、銀行窓販が中心で2兆円弱の残高という。条件はいろいろと異なっているようだが、デリバティブを絡めているため投資家はデリバティブ取引をしていることになる。いわゆる運用は基本的にはなされていないと言ってよいであろう。投信は基本に立ち返り、真面目に投資対象を分析するオーソドックスなものに戻らねばならない。リスクが投資家に分かりやすく説明しうるものであれば、損失の発生があろうと投資家は自己責任を受け入れる。投信業界も、発行届出書を受理する当局も、市場に逆風が吹いている時にこそ考えてもらいたい。(以上は筆者の個人的な見解です)(了)

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