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筆者が本稿の執筆に着手した2008年3月3日、三菱電機は、現在NTTドコモに提供しているD905i、D705i、D705iμの3機種を最後として、携帯端末の新規開発を終了するというニュースが飛び込んできた。
同社の2008年3月期の売上高予想は、1000億円、出荷台数見込みは約210万台である(読者の皆さんに分かりやすくいうと、この数字はフィンランドのノキアの2日分の生産台数である)。この撤退に伴い170億円の損失を見込んでいる。同社は携帯端末事業を終了させて、戦略的事業再編を行うことを決意した。このことは、勇気ある撤退として三菱電機の事業最適化を行ううえで、高く評価できる。
さらに、本稿が最終校正の段階に入った2008年3月10日、ソニーがNTTドコモ向けの携帯端末事業から事実上撤退するというニュースも飛び込んできた。すぐにソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの広報部から「ドコモからの撤退はない」とのコメントが出たが「商品計画の見直しを行っているのは事実」と微妙なニュアンスも残った。
日本の携帯端末市場は、1人1台時代に入った飽和状態の中に、日本携帯端末メーカー11社がひしめき、これに内製半導体メーカーがぶら下がっているという、世界でも類を見ない異質なサプライチェーン構造である。携帯端末の契約台数の前月比の伸び率は、ここ数年は1%を切っている。すでに、日本では3Gおよび3.5G(HSDPA)端末が中心となり、ワンセグ放送やインターネット・サービス、カメラの高画素化やMP3オーディオ、電子マネーなど、常に新しい機能の搭載が迫られている。
現在の携帯端末の開発費は1機種100億円程度であり、新機種の投入サイクルも年3回と非常に短い。この開発費用が重くのし掛かって企業収益を圧迫しており、日本の携帯端末の下位メーカーを中心に再編が急速に進むことになる。日本では、“ガラパゴス”携帯端末が独自進化を遂げたが、これは単なるニッポン電機メーカーのプライドのためだけであろう。
今回の半導体ウォッチは、前回「日の丸ケータイは世界で惨敗の“ガラパゴス”品種」の続編として、携帯端末市場にかかわる部品を手掛けるメーカーに向けた新グローバル成長戦略を紹介しよう。
関連情報 | |
三菱電機、携帯電話事業から撤退――B2B事業に注力(ITmedia Newsより) http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0803/03/news062.html |
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ソニー、ドコモ向け携帯電話から撤退・国内事業を縮小(NIKKEI NETより) http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080310AT1D0900N09032008.html |
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ソニエリ「ドコモ向け携帯からの撤退はない」 一部報道にコメント(ITmedia Newsより) http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/10/news036.html |
世界に影響を与えるノキアの戦略
2008年1月、世界の携帯端末の出荷台数と市場シェアで世界1位を占めているノキアは、ドイツ・ボーフムのモバイル機器製造拠点を2008年半ばまでに閉鎖する計画を明らかにしている。ボーフム工場は、現状のまま製造を継続しても世界的な競争力を獲得できないと判断されたのである。極めて、ドラスティックかつ戦略的な経営判断であり、明確なる地域戦略の一環である。なお、ノキア・ジャパン リサーチセンターも閉鎖対象である。同センターは、ハイテク携帯端末としての日本市場のリサーチの役目を終え縮小し、実質撤退するものと当社(ジェイスター)では見ている。
同工場での製造業務は、よりコスト競争力の高いほかの欧州拠点に移す計画だという。ノキアは、長期的な競争力を確保するための戦略を練り上げ、グローバル市場環境の変化とコスト競争力に対する要求の高まりに対し、適切なる経営判断を行った。この迅速な決断は、ノキアと日本携帯端末メーカーの経営戦略の差ともいえよう。
ノキアのドイツにおける携帯端末製造からの撤退は、台湾BenQ社と米モトローラに続く携帯端末業界の動きとなる。BenQ社は、2006年の大規模なコスト削減計画の一環として、一方のモトローラは2007年に3億米ドル以上に上る人件費削減策の一環として、それぞれ撤退を決めている。そして2008年1月31日、モトローラは携帯端末事業の分離を検討すると発表した。同社は、グローバル市場での成長と収益力を取り戻すため、戦略上の再編成を行う。これは携帯端末メーカーの世界的な大再編につながるだろう。
関連情報 | |
Nokia社がドイツ工場閉鎖の計画を明らかに、2300名のレイオフへ発展か(EDN Japanより) http://www.ednjapan.com/content/l_news/2008/01/u3eqp3000001lmlu.html |
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モトローラ、携帯電話事業部門の分割を検討(CNET Japanより) http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20366344,00.htm |
ノキアのグローバル携帯端末部品の調達戦略
ノキアの最近の企業動向を見てみよう。2007年8月、同社の携帯端末事業をファブレス化する動きとして、3G携帯端末向け半導体事業の譲渡と200名のデバイス開発技術者の一部を伊仏合弁のSTMicroelectronics社に移籍する計画を明らかにしている。この契約により、STMicroelectronics社は、3G携帯端末のチップセットをノキアのモデム技術、パワーマネジメント技術、高周波無線技術に基づき設計・製造し、ノキアやそれ以外の世界市場の携帯端末メーカーに対して統合ソリューションとして提供することが可能になる。この契約は、STMicroelectronics社にとっても非常に意義深いものである。
STMicroelectronics社は、2007年第3四半期分の会計報告において「無線技術および3Gデジタル・ベースバンド部品に関するノキアとの戦略的部品調達契約全般において強みを見いだしている」という旨を述べている。新秩序となる「ユーロ・アライアンス」の影響を受ける企業はどこか?
表1は、携帯端末のDSPチップ情報として、そして米Texas Instruments(以下、TI)社ウォッチャーとして最も精度の高い米調査会社Forward Concept社のデータを基に、当社が加筆作成したものである。成長する新興市場の携帯端末は、TI社とノキアとの蜜月関係を崩壊させた。栄枯盛衰、これも資本主義の市場原理であろう。新興市場を中心に成長している超低コスト携帯端末は汎用の半導体チップを採用する。セカンドティアの企業であった、STMicroelectronics社(RFアナログフロントエンドはノキア独占のファーストティア)、米Broadcom社、独Infineon Technologies社がノキアの新たな戦略的部品調達先となる。2010年までに、Infineon Technologies社は携帯端末向け半導体メーカーのトップ3に食い込む戦略を立てている。TIは、脱ノキアとして、「Android」陣営に急速にビジネスの重心を移し始めるだろう。
メーカー | 国籍 | 今後の ジェイスター予測 |
2006年シェア* | 備考 |
Texas Instruments | 米国 | 42% | ||
Qualcomm | 米国 | ↑ | 25.3% | |
Freescale Semiconductor | 米国 | ↓ | 11% | |
NECエレクトロニクス | 日本 | ↓ | 4.7% | |
MediaTek | 台湾 | ↑ | 4.1% | 米Analog Devices社の携帯端末用チップ関連事業買収 |
Agere Systems | 米国 | ↓ | 3.7% | |
NXP Semiconductors | オランダ | 3.0% | 米Silicon Laboratories社の携帯端末向け事業買収 | |
Infineon Technologies | ドイツ | ↑ | 2.2% | 米LSI社の携帯端末向けチップ事業買収 |
Broadcom | 米国 | ↑ | 1.6% | |
Atheros Communications | 米国 | ↓ | 0.5% | |
東芝セミコンダクター社 | 日本 | 0.5% | ||
EoNex Technologies | 韓国 | ↓ | 0.4% | |
OKI | 日本 | ↓ | 0.3% | |
Sunplus Technology | 台湾 | ↓ | 0.3% | |
VIA Technology | 台湾 | ↓ | 0.2% | |
ソニー | 日本 | ↓ | 0.1% | |
松下電器産業半導体社 | 日本 | → | 0.03% | |
そのほか | ― | ― | 0.3% | |
表1 携帯向けベースバンド・プロセッサの2006年世界シェア (2006年におけるベースバンド・プロセッサの全出荷数量は10億3000万個) 出典:米Forward Concepts社の公表データ(*)を基にジェイスターが加筆作成 |
関連情報 | |
Nokia社が3Gチップセット事業をSTMicroelectronics社に委託(EDN Japanより) http://www.ednjapan.com/content/l_news/2007/08/u3eqp300000120sh.html |
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米TI社が「Androidケータイ」の試作機を初公開、人波が絶えず(Tech-On!より) http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080212/147268/ |
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