救急医療の本質を議論 救急と医療連携の検討会

 「救急医療情報システムの整備も大事だが、一番の問題は医療崩壊だ」―。救急医療について本質的な議論を続けてきた消防機関と医療機関の連携に関する作業部会は3月11日に中間報告を取りまとめ、次年度の議論に向けての小休止に入った。同部会は相次ぐ救急搬送の受け入れ困難の問題の早期解決を目指して、昨年12月に発足。報告書自体は救急医療体制の整備を求める内容でまとめたが、有賀徹座長(昭和大学病院副院長)のリードで、2次救急の疲弊や勤務医不足についての発言もあるなど、行政の検討会にありがちな予定調和を破る議論を展開してきた。

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 「消防庁や厚労省には役所の理論、消防や医療機関にもそれぞれの言い分があることは分かる。しかし、これは患者のための議論だ。議論の軸が逸れた時には『患者のためになるか』。そこに立ち戻りたい」。2月14日の会議冒頭、毎回さまざまな立場から錯綜する議論について、有賀座長がどうしても前置きしたいとして切り出した。委員らは座長の戒めに向き直り、議論に入った。

 医療機関で救急患者の受け入れが難しい現状について、消防本部の委員は救急医の疲弊についての新聞記事を持ち出し、「こうした実態があるから医療機関は受け入れが難しいのでは」と投げかけた。医療機関の委員は「患者が求める100%の医療を提供することは難しい。どこまで医師と患者の間でコンセンサスを得られるかだ」と、患者の医療側への要求が高度になっているため対応が難しいと吐露した。
 勤務医不足について意見を聞かれた厚生労働省の委員が「勤務医不足が簡単に解決しない中、工夫の一つがこの検討会なのでは」と答えると、座長が「根本的な治療は、工夫の問題ではない」と切り返す場面もあった。

 部会が発足した昨年12月13日、消防庁は今後の議論の土台として、産科救急搬送の確実な受け入れやバックアップ体制の確保を都道府県に求める同月付けの厚労省との連名通知を紹介。座長自身が消防庁に対し、「都道府県の担当者がこれを受けとって『はい、分かりました』でできるのならば、私たちはここでこれから何を議論するのか」と質問して消防庁側が返答に窮する場面もあった。

 「医療崩壊が解決しないとこの議論も意味がない」、「死亡確認のために救命救急センターに運ばれているケースが多い。今後高齢化が進むのにこの状況では救急隊と医療機関は振り回されて、本当に助かる患者を運べない可能性もある」といった意見や、精神障害や薬物依存の患者、路上生活者などはどのような医療機関でも受け入れが難しいことなども話題に上がり、「こうした状況をどうすればいいのか」と切実な意見が毎回上がった。

 報告書を取りまとめた11日、有賀座長は消防庁が「国民の安全・安心を守るべく」という文言を盛り込んだことについて、「安全と安心は違う。『安全』は何回手術したら何回失敗するかというサイエンスの話。『安心』は、だからその先生にかかるか、手術をやめようか、という心の納得の問題。だから安心を守るということは際限がない」と、患者の納得を得なければ安心の医療にはつながらないとの考えを述べた。

■21日に報告書提出へ
 作業部会は21日、救急業務高度化推進検討会に救急医療情報システムの活用促進や救急搬送の検証の場を提案する報告書を提出する。4月以降に開催する来年度の議論内容は未定で、消防庁は「有賀座長との話し合い次第」としている。有賀座長はCBニュースに対し、「私が座長だと決まった展開にはならない。患者のために見落としていけないところは言っていかなければ」と今後も患者の立場に立った議論を進めるとの意気込みを示した。救急医療の現状が困難を極めている今、行政の中で本質的な議論を続ける同部会には、期待される議論が山積している。


更新:2008/03/13 09:31     キャリアブレイン

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08/01/25配信

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医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。