3月13日(ブルームバーグ):船舶塗料で世界最大手の中国塗料が、国際
海事機構(IMO)の環境規制強化を機に業容を拡大している。他社に先駆け
る形で発がん性物質を含むタール塗料の取り扱いをやめ、短期的にシェアを落
とす局面もあったが、高コストの新塗装基準を造船メーカーなどに推奨してき
た。同社の6年前の経営決断を振り返り、今後の成長確度などを探る。
「当社がやらなきゃ、どこがやるのだ」――。船舶塗料事業本部企画室長
の三好秀則執行役員は、取引先の消失を危惧する営業マンらにリーディング・
カンパニーとしての誇りを持つよう叱咤(しった)激励を続けた。中国塗の船
舶用塗料での世界シェアは現在17%で2位グループ、国内シェアは業界トップ
の60%だ。塗料各社が自動車などに水平展開、収益規模を拡大する中で、中国
塗は船舶塗料に固執。1970年以降の造船不況期には経営体力を奪われたが、昨
今の造船ブームで復活し、他社が船舶塗料から撤退したことで残存者メリット
を享受した。
中国塗がタールフリー(タールを使わない新塗料の総称)の使用を検討し
始めたのは1997年以降。欧米で環境意識が高まっていたところに労働争議など
もあり、タール塗料の危険性が世界的に問題視されていたことを受けた。欧州
の塗料メーカーが訴訟リスクを恐れて自主的にタールフリー塗料に移行してい
く中で、韓国もタールフリー化を採択。中国塗でも1998年から、タール塗料の
供給を停止することを社内で協議し始めた。
法規制がある訳でもないのに、なぜみすみす収益機会を失わなければいけ
ないのか――。現場の営業マンの反発は強かったが、中国塗は2002年までに社
内でタールフリー化を決議。04年には、対外的に「今後2年以内をめどにター
ル塗料の製造・販売を中止する」と発表した。
シェア失う
しかし、日本の船主や造船所など関係者の動きは鈍かった。タール塗料は
タールフリー塗料より安い上、防食性能にも優れる。顧客先の中には、わざわ
ざコスト高になる塗料を使うのは不合理で、あまり言うなら関係を切るという
ところもあった。それは、IMOがタール塗料の全面禁止を決めた06年5月の
第81回海上安全委員会(MSC81)以降も続く。IMOの規定が実質的に強
制力を持つのは08年7月以降の契約分で、着工では12年7月以降となる。
「今のうちにタール塗料を使ってしまおうという選択肢もあり得る」(三好
氏)わけだ。
IMOの決議を受けてタールフリー塗料を使おうという船主であっても、
少しでも安い塗料を使いたいというのが本音。業界2位以下の塗料メーカーを
採用する向きも随分増えた。ウォーターバラストタンク用塗料での中国塗のシ
ェアは、05年度の66%から06年度には53%、07年度には47%と漸減。外板
用塗料のシェアも05年度の60%から07年度の51%へ、9ポイント落ちた。
リーマン・ブラザーズ証券の佐藤仁シニアアナリストは、「ほかの塗料メ
ーカーの場合、船舶用塗料は主力製品ではなく、ある意味採算を度外視した受
注の動きもあったようだ」と、投資家向けメモの中で指摘。一方で中国塗は、
「むしろ収益を重視した選別色を強め」(同氏)、大手顧客の囲い込みを行っ
た。
三好氏は「これまで何度もタールフリーを薦めてきたため、船主側の設計
担当者も当社の姿勢を随分理解してくれた。この信頼感が顧客先と互いに協力
し合える土壌をつくった」と胸を張る。
膜厚は最低30%増、好循環期へ順風
シェア以前に、絶対的な塗料の使用量も伸びる見通しだ。IMOの決定を
受け、総トン数500トン以上のすべての船舶のバラストタンクと150メートル
以上のバルクキャリアーの二重船側部はタールフリー塗料の使用が義務付けら
れる。08年竣工予定の世界の船舶数は2748隻で、統計を取り始めた1990年以
降では最高となる。
加えて、塗料の検査体制も一段と強化される予定。検査官は今後5平方メ
ートルに1カ所の割合で膜厚が320ミクロンを超えているかどうか、計測する
よう求められる。現状では検査ポイントも少ない上、膜厚も240ミクロンとな
っており、規制改正で塗料の量が大きく伸びることは必至だ。「少なくとも船
舶塗料の使用量は1.5倍以上になる」(三好氏)と、中国塗ではみている。
造船会社の新造船の受注は、2012年ごろまで決まっていると言われる。三
菱UFJ証券の沢田高志シニアアナリストは、「船舶用塗料は少なくとも今後
3-4年は収益拡大が続く」と予測、これまでに作られた新しい船が順次稼働
していくと、「3年に1回程度の塗り替えでの需要拡大」(同氏)も見込め、
業界として好循環期に入っていく公算が大きい。
中国塗は、06年11月末に上海で新工場を竣工。広東2カ所の工場と合わ
せると、月1万6000トンの生産能力を有する。しばらくは現状の生産能力で対
応が可能とみるが、アナリストらが期待する修繕需要の取り込みにも注力する
ようになると、需給はひっ迫する見通しだ。中国塗・管理本部経営企画室の川
崎雅博リーダーは、「新しい工場を建設することなども検討はしている」と話
す。
脱ローテク、プレミアム評価の必要
東海東京調査センターの赤羽高シニアアナリストは、市場コンセンサスベ
ースで9倍の時価予想PERはあまりに割安との認識。「ペンキはローテクと
のイメージが持たれているかも知れないが、船底塗料は本当の意味での特殊化
学品。船の性能を高める」とし、今後の成長性から20倍までの評価が妥当とみ
る。TOPIX化学株指数の足元のPERは14倍。「原料高やデジタル家電分
野での技術革新など、リスク要因を考えると、ほかの化学メーカーはディスカ
ウントされるべき。中国塗の場合、需要が今後拡大していく上、競合条件がが
らりと変わるリスクも小さく、市場平均にプレミアムを乗せて評価すべき」
(同氏)という。
東海東京調査センターによる来期(09年3月期)の1株利益(EPS)予
想は110円で、PER20倍で評価すると2200円になる。ブルームバーグ・デ
ータに登録されたアナリスト5人による09年3月期のEPS予想の平均は101
円21銭、10年3月期は同111円10銭となっている。
中国塗株は01年1月の191円を直近の底値として上昇基調に転換、07年
8月7日には1740円まで上げた。その後、日本株相場の下げに連動して08年
3月11日の682円まで6割調整、現在も底値圏で足踏みする。ただ、機関投資
家は下値を拾っているようだ。ブルームバーグの保有機関検索(PHDC)機
能で見ると、大和証券投資信託委託や三菱UFJ信託銀行が1月中旬に購入、
三菱U信託の保有比率は2.86%に高まった。このほか、オーストリアのケプラ
ー、フィンランドのFIMなどの小型株ファンドからの買いも散見される。
13日午前の中国塗株は、前日比18円(2.4%)安の734円。
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