支局長からの手紙

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ウラかく戦略なら /奈良

 週末の記事が多く、しばらくご無沙汰(ぶさた)していました。常に事件や事故に気を取られていたことを思えば、異色なニュースが話題になるのは平穏の象徴とも言えましょうか。

 平城遷都1300年祭のマスコットキャラクターに対する反響のことです。県が2月12日に発表した直後から私たちの支局にもはがき、メール、電話など読者から多数の声が届きました。「がっかりした」「仏に角が生えたように見える」など、男女年齢差なく批判的意見が大勢でした。特徴はマスコットに反対を唱える人が実名で、擁護派や報道批判派がすべて匿名という点です。

 本紙では今月2日朝刊1面で花澤茂人記者が変更を求める市民の動きと平城遷都1300年記念事業協会側の対応などをリポートし「ゆるキャラ失格?批判200件」などの見出しが付きました。この記事が東京でも大きく載ったからでしょうか。翌日からは民放の情報番組でも相次ぎ取り上げられ、その後、読売新聞にも全国版でこのキャラについて批判が出ているとの記事が載りました。

 そもそも、協会は一昨年春に大仏の手のひらを立てたようなシンボルマークを決めた際に、「歓迎のはずがストップの合図に見える」などの批判を受けました。マスコットキャラは、その教訓を生かして広く支持されるものが求められていたはずでした。

 もっとも、世間では「好きなタレント」と「嫌いなタレント」のランキング上位が重複することがしばしば。広告効果としては印象が悪いのも注目度に変わりないとの考え方もあるようです。かつてハルウララという1回も勝てない連敗馬が経営不振の高知競馬の救世主としてもてはやされたことがありました。この時も、地元で騒ぎ始め、全国紙に載ったのが導火線となり、東京のテレビが飛びついた--その構図は今回と似たところがあります。

 発表後約2週間で2300件だった愛称の応募は、今月1週間で倍増、約7000件に達したとのこと。県や協会が「悪く言われてもメディアの流れに乗ったもの勝ち」と裏をかいたとすれば、広報の戦略は当たりと言えるかもしれません。

 市民の間に根強い反発がある以上、新聞やテレビは税金を投入する事業を監視する立場から、遠慮なく批判的な情報も発信することでしょう。ただ、高知競馬の幹部や広報担当者は、不眠不休で反響を売り上げに結びつける案を練り、最後は武豊騎手をハルウララに乗せ、馬券を全国発売することに成功しました。今のところ、県や協会からは「負の反響」を逆手に取り記念事業の知名度アップにつなげてやろうという次の一手が見えてきません。市民の声に応えて、キャラクターを変更するのか。たとえ悪役と言われても全国有数の「きもカワ」キャラに定着させていくのか。これからお手並み拝見です。【奈良支局長・井上朗】

毎日新聞 2008年3月9日

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