【27歳、OL６人物語】英語を生かせる仕事にこだわるけれども・・・（第４回）

　帰り道、走行距離12万キロのワンボックスカーを運転しながら、山本さんが言った。

「やりたいと思うことがあったら、とにかく企画書にまとめて俺に出しなよ」。
「やりたいこと、かあ」。
　山本さんは、自分やスタッフがこれまで考えた面白い企画とバカバカしい企画について話し始めた。すぐ隣にいるのに、同じ会社の人なのに、私だけが違う世界にいる。私がやりたいのは、ここにはない。

「それで、千夏は何がしたいの？」
　写真部の飲み会で久しぶりに会った早紀さんは、落ち着いた口調で言った。
「早紀さん、何かプロっぽい」
　そう言ってから気づいた。早紀さんはキャリアカウンセラーになったんだっけ。昔から頼れるお姉さんだった彼女は、自分のことがよくわかってるのだ。だらしなく座っていた私は正座をし直し、背筋を伸ばしておもむろに答えた。

「英語を使った仕事をしたいんですよ」。
　すると、早紀さんは「お前もか」という顔をした。

「英語を使った仕事って幅広いのよ。英語教室の先生、ベビーシッター、通訳…。それに、外国のお客様をもてなすホテルマンや、外国と交渉する人も英語を使ってるわよね。英語っていうのは手段なのよ。英語を使ってどんなことをしたいのか、それが大事なの。千夏は、『英語を使って何がしたいのか』がわかってないんじゃない？」

　聞き分けのない子供に言い含めるように早紀さんが言った。

「その通りです…」

愕然とした。私には、何も見えていなかった。私の居場所はここじゃない――。そればかりに焦点を絞った私の青写真は、全体的にピントがズレていた。

「そんなに落ち込まないくていいってば。自分のことがわからないって人、多いのよ。そのために私たちがいるんだから」。
　早紀さんは私の肩をポンと叩き、ニコッと笑ってみせた。その笑顔は山本さんとダブッて見えた。自分の仕事に誇りを持っている人の笑顔なのかもしれない。

　その後、私は早紀さんに個人カウンセリングを申し込んだ。早紀さんは、「友達なんだからタダでいい」と言ってくれたが、正規料金を払わせてくれとお願いをした。

「３年後、５年後、10年後。その時々、あなたはどうなっていたい？」
「働く上で大切にしたいことは何？」
　早紀さんから投げかけられる言葉の一つひとつに、私は必死に言葉を探す。カウンセリングとは、早紀さんの口を借りて、私自身と会話することだったのだ。

　２週間後、大きな公園に面したカフェのテラス席に山本さんを呼び出し「今月いっぱいで、やめさせて下さい」と切り出し、頭を下げた。５秒、10秒、20秒…沈黙が続く。顔を上げると、彼は公園の大きな木を見上げていた。

「紹介予定派遣に登録して、海外の作品やアーティストをPRする仕事がしたいんです」。
　そう続けた私に視線を移した山本さんは、いつもの笑顔になっていた。

「まあ、お前もやっと自分に合った土を見つけたってことだな。頑張れよ」
　ありがとうございます、と言って私は再び頭を下げた。顔を上げた時、自分が山本さんと同じ笑顔になっていると信じながら。（吉田渓）

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イラスト：茶崎白湯　デイリー４コマ

＜あなたの千夏度テスト＞
□他の人とは違うといわれるのは褒め言葉だと思う
□あまりひとつのところにどっぷり所属するのは苦手
□所属欲が低い
□世間体とか伝統というキーワードが苦手
□やりたいことをやれない仕事ならやめたいと思う
□行動力があるほうだ
□直感を信じるタイプ

ＹＥＳが４つ以上　千夏度高め
あなたは千夏のように集団に属してはいても、どこか属しきらないフワフワしたところがあるのでは？好奇心が旺盛なため楽しそうなことがあるとすぐに行動したくなってしまうタチ。わりとその場の情熱で物事を決定してしまう思い切りの良さがある反面、無計画さが災いして面倒なトラブルに巻き込まれないように注意が必要かも。


ＹＥＳが３以下　千夏度低め
あなたは千夏度が低めで、わりと協調性を重んじるタイプ。ひとりでご飯を食べたりするのも苦手で、一人行動ができる友達が不思議に見えたりするのではないでしょうか？周りに合わせすぎるとストレスがたまってしまうので、たまには自己主張してみては。上手に自分の希望を通すのも処世術の一つだと割り切りましょう。