「子どもたちのネット利用を規制するだけでは解決しない」と話す尾木直樹さん
●「つながることの意味」教えよう 尾木 直樹氏
子どものネット利用を規制すべきか否かの議論は、いつもかみ合わない。産業界などの反対派は、表現の自由やアクセス権の自由ばかりを主張し、子どもがどんな社会で育つべきか、という認識が欠落しているからだ。今は、酒や金、性風俗あふれる盛り場に、無防備な子どもを放しているのと同じ状況だ。
メール依存という、発達面への影響もある。洗顔時も入浴時もケータイを放さない子がいる。都会、地方を問わず、子どもたちには「メールは15分以内に返信」という暗黙のルールがあり、それを守れるかが友情を計るバロメーターになっている。現実世界は喜怒哀楽やしぐさから読み取る非言語コミュニケーションの方が多いのに、無機質な文字だけで「つながっている」と錯覚したまま成長し、社会に出て行くのを放置していいのか。
韓国では、青少年の15%がネット中毒にかかっているとされ、病院が治療に乗り出している。中国は、未成年を入店させたネットカフェは営業停止処分にするなどの厳しい措置をとっている。
日本も産業界の自主規制が難しいなら、ペナルティーを科す必要がある。だがそれだけでは根本的な問題は解決しない。
私が教えている大学のゼミ生が全国4000人の子どもを対象に実施した調査では、「家族が嫌い」と答えた子の全員が、1日3時間以上メールをしている。ほかに面白いことがないからネットに逃げる。ケータイを取り上げるのは、逃げ場のない子どもには拷問に近い。
岐阜や神奈川では、生徒自らが「学校では電源を切る」などのルールを決める高校が出てきた。情報インストラクターの養成などNPO法人も動きだしている。家庭、学校、地域がかかわり、子どもがネットに逃げなくても済む環境づくりに取り組むべきだ。
(8日、子どもとメディア全国フォーラム=まとめ・下崎千加)
●正しい付き合い方伝える 唯野 司氏
ネット上には悪意ある人間がいくらでもいる。ちょっとした行き違いから大きなトラブルに発展することも多い。子どもに限らず、ネット利用者でトラブルに遭う可能性がない人はいない。
何が正しく、何が間違っているか。ネット上でどう振る舞えば良いか。ネットとの正しい付き合い方を大人が子どもに教えなければならない。
誤解されているのがネットの匿名性だ。先日、匿名掲示板で「子どもを殺す」と発言した子どもが補導されたように、ネットにつながる機器にはすべてIPアドレス(識別番号)があり、警察が調べれば特定される。完全な匿名ではないのだ。子どももそうと知れば、ネット上の安易な発言の自制につながるだろう。
自分や他人の個人情報を絶対に出してはならないことも教えたい。名前や写真はもちろん、文化祭などの行事や近所のお店の紹介などから個人が特定されてトラブルになることもある。ネット上に個人情報を出すことは「どうぞ私を自由にして」と言うに等しい。
携帯電話各社は18歳未満の契約者に、親が拒否しない限り自動的にフィルタリング(有害サイトアクセス制限)を設定するようになった。だが親名義の場合は自分から申し込む必要がある。親子で話し合ってほしい。
(5日、福岡市消費生活センター「くらしの情報講座」=まとめ・江藤俊哉)
=2008/03/12付 西日本新聞朝刊=