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2008年03月13日(木曜日)付

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武藤氏不同意―「困ってます」では困る

 がっかりして、力が抜ける思いである。注目の日本銀行総裁人事は結局、参院で民主党など野党の反対で政府提案は不同意となり、白紙に戻ってしまった。

 政府与党と野党は、何の工夫も知恵もないまま、激突への坂道を転がっていった。総裁の任期切れははるか以前から決まっていたことだ。なのに、現実的な解決を見いだせない。その結果、日本の金融政策のトップが不在になりかねない。政治のあまりの無策にあきれる。

 この異常事態の背景には、二院制の制度的な不備があるかもしれない。

 衆参両院の意思が異なった場合、首相指名や予算案などは衆院の議決が優越するし、一般の法案でも衆院での3分の2の多数で再可決することができる。

 だが、日銀総裁などの同意人事には、そうした打開のための規定がない。

 歴史的には同意人事にも衆院の優越規定が存在していた。会計検査院の検査官や公正取引委員などは当初、その規定が盛り込まれていた。

 それが法制定後まもなく、参院重視の見地から改められ、最終的には99年の会計検査院法の改正で衆院の優越はなくなった。これを主導したのが参院自民党だったのは皮肉なことだ。

 総裁らを同意人事の対象とした97年の日銀法の改正でもそれを踏襲した。

 参院の権威と存在感を高めるという目的が優先したのだろう。同意人事は政争の具とせず、政党は理性的に判断する。そんな期待があったに違いない。

 それは楽観的に過ぎたようである。だが、福田首相のように「困ってます」と嘆いていても始まらない。まずは首相こそ、もつれた糸を解きほぐす努力を始めるべきだ。

 そもそも民主党内には、武藤敏郎副総裁の昇格を認める動きもあった。それを見極めようと、人事案の国会提示を遅らせた首相の判断は分からぬでもない。

 だが、その一方で衆院で予算案などの採決を強行したのが間違いだった。ただでさえ難しい人事が、政争のまっただ中に置かれてしまった。民主党は本来なら冷静に対応すべきところだったが、逆に反対でまとまってしまった。

 参院での人事不同意を受けて、与党は民主党に政党間協議を呼びかけるという。与党側はこれまでの非を率直に認めて、総裁ポストを空席にしないために協力を求めるしかあるまい。

 ガソリン暫定税率などの修正案づくりの時間切れが迫っている。総裁人事とごちゃまぜにすべき話ではないが、落ち着いた与野党協議の環境をつくるなかでともに出口を探るのが現実的ではないか。

 民主党も一度は武藤氏反対を通したのだから、そろそろ拳の下ろしどころを考えてはどうか。不安定な経済情勢をはじめ、ガソリン税や道路財源での対決といった大局を見据えるべきだ。

 与野党ともに、軟着陸のための知恵と勇気を発揮してもらいたい。

「きぼう」―1兆円を生かせるか

 宇宙飛行士の土井隆雄さんを乗せた米国のスペースシャトル・エンデバーが宇宙へ旅立った。

 積み荷は、国際宇宙ステーションに取り付ける日本の実験棟「きぼう」の一部だ。土井さんの言葉によれば、きぼうは日本にとって宇宙の「小さな家」である。今回運ぶのは、いわば物置で、今後2回の飛行で建物本体とテラスを運び、来年完成する。

 宇宙で人間が活動できる施設を持っているのは、長い間米国とロシアだけだった。欧州と並んで日本も加わることになった意味は大きい。

 しかし、肝心なのは、そこをどう使い、どう生かしていくかだ。

 きぼうの建設費は約5500億円、物資の輸送など運用に今後、毎年約400億円かかる。準備段階も含めれば合計1兆円に達する巨大プロジェクトである。どのようにして巨額の投資に見合う成果を上げるのかが問われている。

 国際宇宙ステーションは1984年、旧ソ連に対抗して西側の結束を示す目的でレーガン米大統領が提唱したのが始まりだ。日本や欧州が参加し、92年に完成する予定だった。

 ところが、旧ソ連が崩壊し、宇宙技術を持つロシアは一転、欠かせないパートナーとなった。そのロシアの経済難やスペースシャトル事故のあおりで計画は大幅に遅れた。きぼうにとっても予定より20年近く遅れての旅立ちである。

 この間に宇宙実験の意味合いが薄れた。無重量状態で純粋な物質を作って解析すれば、新薬などの開発に役立つと期待されていたが、コンピューター技術の進歩などで地上でも同じような結果が得られるようになったのだ。

 いまのところ、きぼうでは無重量状態で生物の育ち方がどう変わるかを調べたり、たんぱく質のきれいな結晶をつくったりする実験が計画されている。

 きぼうは米国や欧州の実験棟よりもはるかに大きい。外で宇宙線の影響を調べることのできるテラスもある。そのような特徴を生かし、斬新な実験や活動をするよう知恵を絞ってもらいたい。

 アジアで唯一の宇宙の家として有効に使うことも大切だ。たとえば、アジアの若者や子どもたちから幅広く実験のアイデアを募ってはどうか。

 宇宙ステーション計画の先のことも考えておかなければならない。

 米国は10年にステーションを完成させ、同時にスペースシャトルを退役させて月面活動に重点を移す計画だ。ロシアのソユーズ宇宙船を使って、15年まではステーションを運用するが、その後どうするかは決まっていない。

 日本の有人の宇宙開発計画はこれまで米国に振り回されながらも、米国に従ってきた。それではすまない時期がすぐそこに来ている。

 日本として何をめざすのか。今こそ、しっかりした計画が必要なときだ。

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