救急隊が急患を救急搬送しようとして、医療機関から三回以上受け入れ拒否された事例は、昨年一年間に全国で計約二万四千件に上ることが総務省消防庁の調査で分かった。
受け入れ拒否の全体像をまとめたのは今回が初めてだ。救急医療体制の深刻な実態があらためて浮かび上がったといえよう。
拒否三回以上の内訳は、妊婦、子どもを含む重症患者が一万四千三百八十七件、十五歳未満の子どもが八千六百十八件、妊婦が千八十四件である。子どもが36%を占めているのが気になる。
子どもで十回以上の拒否は二百二十件で、最多拒否回数は東京の三十四回だった。妊婦で十回以上の拒否は五十三件で、千葉での四十二回が最多を記録した。三回以上の拒否件数は年々増加している。重症患者の十回以上の拒否は千七十四件で、最多は東京の四十九回だった。受け入れ拒否は東京、大阪など大都市圏に集中していた。
拒否理由で最も多いのは、子どもの場合が「(医師が)専門外」、妊婦と重症患者はスタッフや器材不足などによる「処置困難」だ。ほかに「ベッド満床」「手術中・患者対応中」もあった。
救急搬送の受け入れ拒否が社会問題化したのは、昨年八月、奈良県で腹痛を訴えた妊婦が医療機関に救急搬送の受け入れを十回以上断られて死産する悲劇が起きたのがきっかけだ。同年十二月には大阪府富田林市で体調不良を訴えた女性が三十病院で受け入れられず死亡するなど同様の事例が繰り返された。
増田寛也総務相は調査結果について「予想を上回る大変厳しい状況だ」と述べ、都道府県の消防、医療担当者による対策会議を緊急開催する考えを明らかにした。対応を急がねばなるまい。
消防庁の作業部会は、当面の対策として、医療機関に「救急医療情報システム」の空きベッド情報の即時更新などを求める中間報告をまとめた。同システムは、四十四都道府県で導入されているが、リアルタイム情報でないなどの理由で活用していない消防本部も多い。情報の更新頻度を高めることで利用率を向上させ、搬送先がスムーズに決まるようにするのが狙いだ。消防と病院側のきめ細かい連携プレーが望まれる。
ただ、救急搬送受け入れ拒否問題の背景には、医師不足や救急病院の減少など医療現場が抱える構造的問題があることを忘れてはなるまい。救急システムの徹底した検証とともに、医療体制の再構築に政府全体で取り組むことが何よりも急がれる。
東京都が自治体初の銀行として設立した新銀行東京が窮地に陥っている。財務内容は危機的状況で、都の追加出資による救済か、事業の継続断念かの選択が迫られている。
新銀行は石原慎太郎都知事の発案で、都が一千億円を出資し二〇〇五年に開業した。
狙いは資金繰りに苦しむ中小企業を支援するためだ。巨額の不良債権を抱えた金融機関が融資を極端に抑制する「貸し渋り」などが問題化する中、ある程度のリスクは覚悟の上で貸し出すという戦略を打ち出した。
最大の特徴は無担保無保証の融資である。土地などの担保がなくても技術力や将来性などを判断し資金提供した。従来の金融機関の担保主義に対する挑戦といえよう。民業圧迫批判もあったが、金融機関の新しいビジネスモデルを確立しようとする試みは評価できた。
しかし、経営は設立当初から悪化の一途をたどった。損失は雪だるま式に拡大し、〇八年三月期の累積赤字見通しは約一千億円に上る。
原因は大別すると二つあるようだ。まず経済環境の変化である。景気の回復で金融機関の不良債権処理が進んだ。中小企業に対する金融機関の融資が活発化し、新銀行の取引先が奪われた。
二つ目は新銀行のずさんな運営だ。融資をはやるあまり、審査が甘くなって焦げ付きが膨らんだという。
都は救済に向け追加出資案を都議会に提案した。新銀行の支援で存続が可能になった例も少なくないが、金融機関の再生で役割は終わったのではないか。ただ、金融業界にとって新銀行が一石を投じた問題提起は生かす必要がある。担保に頼らない審査能力の重要性は今後も高まろう。
(2008年3月13日掲載)