New Journal of Physicsの3月号がダウンロードできるようになりました。
我々の渋滞論文は↓
http://iopscience.iop.org/1367-2630/10/3/033001
"Traffic jam without bottleneck – Experimental evidence for the physical mechanism of formation of a jam",
Yuki Sugiyama, Minoru Fukui, Macoto Kikuchi, Katsuya Hasebe, Akihiro Nakayama, Katsuhiro Nishinari, Shin-ichi Tadaki and Satoshi Yukawa
(New Journal of Physics 3, 1 (March 2008) 016001)
サイトから論文のPDFとビデオをダウンロードできます。
無料で誰でもダウンロードできますので、どうぞ。
New Scientistの記事
http://technology.newscientist.com/article/dn13402
まあ、記事の中に懐疑的なコメントがつけられてしまうのもしかたないということで。
YouTubeのNew Scientist Videoでナレーションつきのダイジェストも見られます。まさか、こんなことするとは思わなかったですが・・・
http://www.youtube.com/user/newscientistvideo
朝日新聞の大阪版夕刊に載った(はずの)記事
http://www.asahi.com/kansai/sumai/news/OSK200803040038.html
大阪版なので「阪大」を強調しているのはご愛嬌ということで。本文はきわめて的確な要約になっています。
ちなみに、この実験は名古屋大の杉山さんを中心として、さまざまな大学のスタッフが集まって行ったものなので(著者8人で所属が9カ所。学生はひとりもいません)、「名大の実験」でも「阪大の実験」でもありません。
[長い長い追記]:
誤解されないように繰り返しておくと、この実験は「確認」であって、背景には数理モデルがあります。
かつては渋滞は「ボトルネック」が引き起こすものと考えられていましたが、90年代にいくつかの数理モデル(微分方程式、セルオートマトン、結合写像など)が提案され、そのどれもが渋滞は「相転移」であるという結論を出しました。もっともよく知られているのが杉山さんたちのOVモデルです。OVモデルは数理的な解析がしやすく、設定によっては厳密解も得られています。一方、僕たちはセルオートマトンや結合写像のモデルを扱っていました(ちなみに、モデル間の関係は西成さんによってある程度解明されています)。
ちょうど水が0度を境に氷になるように、自由走行と渋滞の間で転移が起きますが、それを決めるのは温度ではなく、密度です。「臨界密度」以上の密度になると、自由走行状態は「不安定」となり、かすかな速度ゆらぎでも渋滞へと転移します。現象としては、低密度では速度ゆらぎが後ろに伝わるにつれて減衰するのに対し、高密度ではゆらぎがうしろに伝わるにつれて拡大します。渋滞を決める本質的に重要なパラメータは密度であるということです。
このような「相転移描像」が90年代以降に発展した「物理的解釈」です。したがって、数理モデルや数値シミュレーションなどでは、さまざまなことがすでにわかっていたのですが、それを実際にやってみたというのが、今回の実験。僕たちはみんな理論やシミュレーションをやってきたのですが、数理モデルに基づく「物理的解釈」がなかなか世間(^^)に受け入れてもらえないので、本物でやってみせたという「デモ」だと思ってもらってもいいです。
[さらに追記]
相転移であるという意味は、非渋滞と渋滞の違いは単なる「程度問題」ではなくて、質的に違う「完全に区別のつくふたつの状態」ということです。これは道路行政上の「渋滞」の定義とは違います。
[もうひとつ追記]
もっとちゃんと言うと、「渋滞が安定だが、自由走行も準安定」という密度領域があって、ここでの自由走行が氷でいえば「過冷却」に相当する部分。極端に簡単なモデル(rule184セルオートマトンなど)ではこの状態がないのですが、高速道路での実測データ上は準安定領域があるように見えるので、準安定を持つモデルのほうがより現実に近いと考えられます。今回の実験で一様走行がしばらく続くのは準安定だからというのが一番もっともらしい解釈だし、そう考えてはいます。ただし、小さいシステムでもあり、車もいろいろなので、準安定領域はぼけちゃうと思うんで微妙といえば微妙。密度が連続に変えられませんから(一台単位でしか台数を変えられないので)、この実験だけをもとにあまり細かい議論はしないほうがよいのだと思います。そういう意味で、数理モデルをきちんとやって、理解しておくことが重要なのです。いずれ、もっとでかいシステムで、いろいろ条件を変えて実験します・・・研究費ができたら(^^;
[追記はここまで]
ちなみに、この実験と同じようなものをテレビで見たという人も多いでしょう。
初めて実験が行われたのは、板東昌子先生を中心として我々を含む研究者が協力した東海テレビの番組でした。残念ながら、これはデータを取ることを想定しない実験だったため、論文化できませんでした(今回の論文で触れています)。
その次はまさに今回の実験そのもので、2003年に行いました。これは「現象を見る」だけではなく、きちんとしたデータを取ることを最大の目標に、全周ミラーをつけたビデオカメラなども揃えて臨んだものです。その成果は論文の中の図になっています。このとき、実験を聞きつけたフジテレビが録画して放映したいというので、実験の一部をテレビ番組に使うことを許可しました。交通バラエティとかいう短命の番組でした。この番組を見たかたは、つまりこの実験そのものを見たわけです。
その後、いくつかのテレビから実験したいとい申し出があったのですが、だいたいは断っていて、その次は西成さんが出た「世界一受けたい授業」だと思います。このときの実験はたぶんデータ化されていない。
というわけで、「そんな実験ならテレビでやってた」というあなた、それは我々の実験です。それがようやく論文になったというわけ。
もちろん、我々が関与してない実験もテレビで放映されているのですが、それらはことごとく「相転移描像」に基づいた実験ではありません。それらのテレビで「示された」ことは、我々に言わせれば「本質的ではない」ということです(たとえば、先頭が急ブレーキを踏む実験もありました。一方、急ブレーキは関係ないというのが我々の実験)。
[追記]ネットを見ると、急ブレーキ実験は200Xだったのかな。もちろん、臨界密度以上で急ブレーキをかければ渋滞のきっかけになるのですが、それは本質ではない。特に誰かが急ブレーキをかけたわけではなくても渋滞になります。[ここまで]
念のために言いますが、テレビ局からは研究資金もなにも一切貰ってませんから。
貧乏なんだよ。各自の研究費を持ち寄って実験したんだよ。ビデオカメラは誰の研究費で買って、全周ミラーは誰の研究費で買って、みたいな。理論グループだから研究費ないんだよ。
[感想の追記]
新聞記事になったので、結構いろんなとこにコメントがあるんですが、意味をすごくよくわかってくれてる人たちと全然理解してくれてない人たちがいて、なかなか難しいですな。というわけで、たくさん追記していますが、それでどうなるというものでもないかもしれない。相転移描像は理解しずらいですかね。
朝日の記事はコンパクトでかつ極めて適切な要約になっています。足りないことがあるとすれば、物理的な数理モデルと相転移描像は90年代以降の理解であること、かな。あの記事以上のことは論文読んでもらうしかないかも。ゆらぎの伝わり方が密度によって「質的に」変わるというのは、全然自明じゃないんだけどね。
もちろん、90年代前半に学会で渋滞の話をすると、「あたりまえ」とか「この効果が大事なはずだ」とか言われたりもしたんで、研究者だって10年前はそうだったんですけどね。日常的な問題は、みんななんとなく「わかってる」気がするようで、しかたないね。
ついでだから、歴史的な話。90年代に日本の物理学者で渋滞を真剣に考えた最初の研究者は高安秀樹・美佐子夫妻で、彼らはすぐにやめちゃったんだけど、そのモデルはすごく単純なのに結構深い。70年代には武者先生の1/fゆらぎの話がありましたが、あれは観点が違う。
「今さら、なにを」というコメントも散見するので、いちおう繰り返しておくと、我々は90年代前半から「相転移描像」でやってるんで、単に「実験論文」がようやく出たということです。実験から論文刊行まで4年かかってるのは(1)僕らが怠け者でなかなか書けなかった(2)Natureをはじめとして、たくさんrejectされた、からです(^^。rejectのたびに書き直すわけですが、怠け者なんで
[その他のこと]
さまざまなリンクは只木さんのところにあります
http://traffic.cc.saga-u.ac.jp/experiment.html
それから、当然なので書き忘れてたけど、一般向けの解説が読みたい人は西成さんの「渋滞学」読んでください。[追記]気づいてないかもしれないけど、西成さんもこの論文の共著者です。西成さんの本に載ってる実験写真はこの実験そのものです
[感想の追記]
ニセ科学の話をするときに、科学者はいろいろ条件をつけていいわけするから嫌われる(ニセ科学は白黒言い切る)って言うんですが、このエントリーはその実例そのものになってきたかも(^^。要約はどれほど正確に見えても誤解を生み(新聞などの要約は、今回の場合、僕らから見ればかなり正確なんです。ただし、コンパクトなので単語をひとつ見落とすだけで不正確になる)、正確に伝えようとするとくどくなる。難しいですな
渋滞の論文が出ました(または相転移現象としての交通渋滞)
2008/3/4
― posted by きくち at 05:42 pm Comment [51] TrackBack [1]
この記事に対するコメント[51件]
1. ちがやまる — March 4, 2008 @19:07:02
実際の高速道路でおきた例では、はじめに割と早く車が流れている時でも、後ろで速度が落ちた時でも、渋滞の伝わる早さが実験と同じくらいなのが不思議でした。車間と人間の反応時間みたいなもので説明できるんでしょうか?
きくち March 5, 2008 @09:21:08
3. ROCKY 江藤 — March 5, 2008 @00:28:05
きくちさん達の論文にはこの語はありませんよね?
きくち March 5, 2008 @09:22:09
ただ、渋滞をShockwaveと捉えるという「流体描像」は1950年代からあって、妙でもないです。
5. しめじ — March 5, 2008 @01:22:54
運転技量が違う人達で、かつ挙動が違う車種で実験したら、
「ボトルネック」が発生しないのでしょうか?
特に同心円を描いて曲がり続けるという行為は
日常の運転ではそうそう無いらしいので、
(JAFの広報誌にハンドル操作を軽減させるために
日本の道路のカーブは楕円に勾配がかけてあると読んだ記憶があります)
そこで運転のブレが発生しそうです。
事前に何速何回転だと時速30kmを維持できる事を確認したのち、
教習車(同一車種同一コンディションのため)
教習所教官or交通機動隊員(運転技量の均一化)で
同様の実験をしてみて、渋滞が起きるのか興味があります。
どうなるんだろ…
道路公団とかは、こういう研究に研究費援助しないとダメですよね。
きくち March 5, 2008 @09:23:32
7. 野尻抱介 — March 5, 2008 @02:04:12
永遠の疑問 「先頭は何をやってるんだ?」に対する答えのひとつは「先頭などいない」でしょうか。
これって粉粒体の物理と関係ありますか? あれも臨界点がどうの、という話があったような。
きくち March 5, 2008 @09:26:15
もちろんこれは数理モデルでとっくにわかっていたことですが。ちなみに、同じ実験を車載カメラで撮ったビデオがあって、「先頭になった私」を体験できます(^^
粉体とは非常に近いです。狭い経路に粉体を流すと、かなり交通渋滞に近いことが起きます。言い換えると、渋滞しそうな密度では車なんて粉みたいなもん、ていうことで(^^
9. 技術開発者 — March 5, 2008 @10:31:31
もうずいぶん前ですが、暮れに田舎に帰るために家族を乗せて渋滞した高速道路を走っていましてね。止まっては走りを繰り返しながら、「今、車は西に向かっているが、この高速道路上では粗密波が西から東に流れているのだろうな」なんて考えて、その粗密波の振幅とか粗密波の移動速度とかをいろいろと考えながら田舎に帰ったんですね。
でもって、新年に人と話をしていて、「たぶん、粗密波の振幅は20キロぐらいで、その移動速度は時速10キロくらいじゃなかったかと思う」なんて言ったわけです(適当に考えたのでかなりいい加減ですよ)。そうしたら、「その渋滞の中で、そんな粗密波のことを考えていたのは、あんたぐらいだろうね」と変に感心されたんですね。
私だけじゃあ無いですよね。きっときくちさんも考える(と変人の仲間に引きずり込もうとする:笑)。
10. tadys — March 5, 2008 @11:21:10
この棒は渋滞緩和に役立っているらしいのですが本当でしょうか?
11. いしやま — March 5, 2008 @11:28:59
星がたくさんあると重力が大きくなって遅くなってしまい、そこが腕になる。腕から脱出できた星は、スピードアップしてスカスカな空間に進んでいける。
星の進行方向と、腕の進行方向とは逆になる。
12. guicheng — March 5, 2008 @13:01:37
ここ数年、集中工事の際には道路公社の先導車が制限速度(50km)で走るようになりました。
当然その後ろは渋滞するわけですが、完全に停止することはなく、低速ながらも走り続けることができます。
そのおかげか、大型連休の大渋滞を考えると圧倒的に早く目的地に着けると実感しています。
やはりこれも、渋滞緩和策の一つなんでしょうか。
だとしたら、大型連休時にもぜひ投入してほしいものですが。
きくち March 6, 2008 @00:49:43
それは効果ありそうですけどね。
14. き — March 5, 2008 @13:09:38
http://koerarenaikabe.livedoor.biz/archives/51143769.html
きくち March 5, 2008 @14:00:32
よくわかってくれてる人たちがいるので、ちょっと安心。
まあ、スレッドができるくらい盛り上がったなら、いいか(^^;
16. disraff — March 5, 2008 @13:13:44
件の渋滞の話と同じ先生が語っていたような気もするのですが、やはり「世界一受けたい授業」で、室内の人が2人並んで出られるくらいの出口からはけるのには出口の真ん中に棒が立ってた方が若干早い、というデモをやってました。棒があると、右方向から来た人のほとんどは右レーン、左方向から来た人のほとんどは左レーンに入ろうとする「整流作用」が働いて、流れがスムーズになるようですね。
そういう箇所での渋滞の原因は、横に動こうとする人との衝突で縦への動きが鈍ること、ということなのかな。
ちなみに、別に棒がなくても、「協力」を行動原理とした方が「競争」を行動原理とするよりもスムーズにはけるようでした。
17. ぴぴ — March 5, 2008 @13:51:25
ボーガスニュースを読んで理解できました。
・・・違う?
きくち March 5, 2008 @14:01:31
ちなみにサイババメディアよりサイバラメディアのほうが鳥頭っぽくていいのに
19. はりがや — March 5, 2008 @13:47:29
http://bogusne.ws/article/88371109.html
20. mastacos — March 5, 2008 @16:14:40
コメントも含めて
―――――――
663
阪大アホすぎるw
と思ってスレを読んでいったら、アホは俺の方だった
―――――――
この辺に笑ってしまった。
賛同者も多いですしw
2chはたまにハットするのがあるので侮れないんですよねえ。
[もしも地球が正方形だったら ]
http://fsokuvip.blog101.fc2.com/blog-entry-419.html
簡単そうに見えて下まで読むとかなり深いです。
あと判らない人に判りやすい絵で解説したのに感心しました。
きくち March 6, 2008 @00:30:14
ちなみに阪大が出てくるのは朝日の記事だけで、ほかは名大の名前だけです。筆頭著者が杉山さんなので、たいていは杉山さんに取材していますから。
で、原論文を見ればわかるように、所属は名大・阪大・東大・名城大・愛知大・中日本自動車短大・佐賀大なんですよ。西成さんがいるから「東大」もはいってるのにねえ。
でも
>と思ってスレを読んでいったら、アホは俺の方だった
これは好き(^^
22. disraff — March 5, 2008 @17:28:35
面白いですね。1の人?が理解した瞬間は、もしかすると「奇跡の人」のかの名場面に匹敵す(嘘。
でもあれだけ人がいて、重力というか引力の向きの話をしてるのに、誰一人としてジオイド面に言及していないのはちとあれかも。
…と言うのは簡単ですが、計算するのは大変そうです^^;;。組成一定、まで簡単化すればできるかな。
23. SEI — March 5, 2008 @18:15:23
小松左京のショートショートで大渋滞の発生を過飽和溶液のアナロジーで表現した作品があったと記憶してます。
たしか昭和40年代くらいの作品だったと思うのですが、オチに皮肉が効いてて面白かった記憶があります。
きくち March 6, 2008 @01:30:33
25. KY — March 5, 2008 @19:39:24
> (著者9人で所属が9カ所。
著者は8人では?
K. Nishinari 氏は、所属が二か所ある模様。
きくち March 5, 2008 @23:06:11
西成さんの所属がふたつです。そうです。
実は複数の所属を持ってる人はほかにもいて、僕はまじめに書くと三つだったりします。
なおします。ありがとうございます。
27. 池田たけし — March 5, 2008 @19:27:44
28. 半日庵 — March 5, 2008 @22:47:25
なお朝日の記事しか読んでいません。
密度が一定値を超えると渋滞するというのは記事の説明で直感的に納得できます。それで密度値は推測可能なのでしょうか?それができれば、渋滞が起きる直前の密度を保つように高速道路への車の流入をコントロールできれば渋滞なしが実現できそうです。
渋滞が起きる密度の条件は道路状況によって変わるのでしょうか?
違法駐車の車が渋滞の原因といって渋滞する様子をシミュレーション映像で見たことがあります。これらが間違いではないとすると、密度が低くても違法駐車があると渋滞がおきるということかなと思ったりしました。
きくち March 5, 2008 @23:10:40
高速道路については、データを整理するとだいたいわかって、東名ならどこでも1kmあたり25台といったところです。
違法駐車があると、その後ろで車の密度が上がり、臨界密度を超えると考えられますね
30. tdm — March 6, 2008 @13:52:29
今回見られたことは円周を回っているから起きる特殊な現象ということはないんでしょうか?
きくち March 6, 2008 @14:37:39
モデルでは円の場合と直線路の場合の両方をやっています。結論としては、安定性やできた渋滞の性質などは基本的に同じです。ただ、直線路のほうが設定の任意性があって、めんどくさいというか。
これはかなり妙な言い方に聞こえると思いますが、理論的には、円をぐるぐるまわっているうちに形成される渋滞のほうが、より「純粋」な渋滞と言っていいものです。
むしろ、「直線路でも、それが観測される」という感じ。直線路では渋滞が常時「発生」して後ろにさがっていくので、円路では実験の初期に見られる現象が直線路では常時見られるというかな。正確ないいかたではありませんが。
円形で完全に閉じた道路なんてのはどこにもないわけで、不自然な設定に見えます。そんな、どこにもないもののほうが「基本的」と言われても困るとは思うのですが、「現実にあるかどうか」と「現象に基本的な設定はなにか」とは違うということです。
飛躍になっちゃいますが、振り子の物理で基本的な設定は「ただし、摩擦は無視できるものとする」ですよね。高校で物理を習うと、この文章ばっかり見るので、「物理なんて非現実的だ」と感じかねないのですが、摩擦を含む力学をやってからもう一度立ち帰ってみれば、やはり「摩擦は無視できるものとする」がより基本的であることが納得できます。そういう話に似ているといえば似ています・・
すみません。これが一般の人に奇妙に聞こえることは重々わかっています。
32. いしやま — March 6, 2008 @15:33:36
円周を回るというのは、地球を一周する直線道路のミニチュア版に相当します。
きくち March 6, 2008 @15:59:51
道路は一次元系なので、さらに問題があって、端の効果が遠方まで伝わるんですよ。任意性と書いたのは「端」の設定ね。
34. tdm — March 6, 2008 @15:40:45
良く論文を拝見したら、同様のことに既に言及されていらっしゃいましたね。失礼致しました(^^;
個人的にはこういう実験好きなので、natureに載らなかったは残念です。
35. BUNTEN — March 6, 2008 @16:05:53
>任意性と書いたのは「端」の設定ね。
ど素人以下なのでよくわかりませんが、ひょっとして端が無い方が(端がどーなっているか考えなくてもいい分)モデルが単純になるとかそーゆー話ですか? (^_^;)
(地球一周路でなくて無限直線?とか、有限直線モデルの端でいきなり車を消滅生成させるべきかそれとも急ブレーキかけて止めるべきかどうかとか考えたら確かに、より面倒くさそうだ。)
36. マンガか — March 6, 2008 @17:18:11
保存系(あるいは、より強く可積分系)という意味で?それとも、現象論的な普遍性ということ?
後者なら、実はそれは相対主義的な発想ではあるけど。西成さん的にはどっちなのか…
>任意性と書いたのは「端」の設定ね。
円の方には半径があるけど。とりあえず、適当に半径は無限大に設定?
きくち March 6, 2008 @18:33:17
相対主義?
保存系であることは大事だけど、可積分であることは特に問題ではないです。現実の振り子には必ず摩擦があるけど、それは摩擦のない系に摩擦を足したものとして理解するのが力学として自然でしょ。
半径は単純なパラメータなので、漸近的にはスケーリングでもなんでも処理できます。
38. いしやま — March 6, 2008 @17:25:08
特に、円周が小さくなりすぎると、履歴のたたみこみが効きすぎてしまうし、変なモードが出てくる可能性あるし。
円周が大きくて車がスパースなら、そう問題は無いような気がしますが、どれだけ大丈夫そうかは、別途確認しておく必要がありますね。あまりスパース過ぎると渋滞になりませんが^^;
きくち March 6, 2008 @18:40:20
40. e10go — March 6, 2008 @22:47:26
>どういう意図でやってるかはわかんないですが、「止まらない」ことは重要だと思います。
>それは効果ありそうですけどね。
水をさしてすみませんが、それでも渋滞は発生すると思います。
渋滞発生の臨界点が、時速100キロのものから時速50キロのものに変わるだけで、そもそも大型連休時には道路上で走っている?車の数が多くて、臨界点を超えている事には変わりありません。
先頭は渋滞しなくても、ずっと後の方で渋滞は発生すると思います。
確実な渋滞対策は、流入制限(車乗り入れ制限)でしょう。
41. BUNTEN — March 7, 2008 @07:39:25
たぶん問題は2点。
1.高密度専用の制限速度を守らせることができるか
2.その制限速度で走行した場合、渋滞した場合より早く走れるか(平均速度が渋滞時より速くなるか)
とりあえず2.が確かなら、1.を考える余地があるでしょう。
(50km/hの臨界密度を計算できないので、この例については私はわかりません。)
42. e10go — March 7, 2008 @13:26:19
でも、そういう事ではないです。
時速100キロから時速50キロになると、臨界点は2倍になります。
これは、同じ区間の車両数の事ですが、もし渋滞が起きないとすれば、ある地点における通過車両の数は時速100キロでも時速50キロでも同じです。
制限速度を変えても、渋滞が起きる事に変わりありません。
その証拠に、大連休時には、高速道路・一般道共に渋滞が発生します。
全車両にクルーズコントロール・オートドライブが付いていても、ロボットが運転しても同じです。
そもそも、路上のある地点での通過できる車両の数は決まっています。
正確な数字(計算式)は忘れましたが、概ね1秒間に1〜2台です。
渋滞で平均速度が落ちている時点では、まだ通過車両台数に余裕がありますが、それを越える車が集中すれば身動きが取れなくなり、渋滞どころか交通がストップします。
43. SEI — March 7, 2008 @16:34:33
腐海の底からサルベージしてきました。
私が読んだのは角川文庫の「鏡の中の世界」に収録された「交通停滞」という作品でした。
コマケンのHPによると初出は1964年の(昭和39年!)10月5日のサンスポだそうです。
ただこの作品の場合、都内で開催されるある大イベント(時期的に東京オリンピックのことですね)のために一般の車両が大量に首都圏に流入したところに、ほんの些細な接触事故をきっかけに都内の交通がいっせいに麻痺してしまう、という物なので、今回の論文とは趣旨が異なりますね。
44. BUNTEN — March 7, 2008 @16:51:34
すみません書き込んだ直後に出かけなければならなかったため、言葉足らずの部分を修正し損ないました。m(_@_;)m
元のguicheng ― March 5, 2008 @13:01:37 さんの論点も2つあって
1.工事中の先導車は(たぶん)うまくいっている
2.GWにも同じ手法が使えないか
私は、どこも飽和状態になるGWは計算するまでもなくこの手法は使えないだろうと見込んで2.を事実上無視していました。
で、
>時速100キロのものから時速50キロのものに変わるだけで、
ここだけに目が向いて誤解してしまったようです。申し訳ありませんでした。m(_@_;)m
>確実な渋滞対策は、流入制限(車乗り入れ制限)でしょう。
私は渋滞しそうになったら料金を上げて流入を減らす"ダイナミック・ロード・プライシング"を推奨します。
ラジオの交通情報は"九州道は太宰府インターで10km渋滞"の代わりに"太宰府インターからの走行は2割高"とか放送するわけですね。
それでも大型連休はどうしようもない。これは(学校を含む)休暇の分散以外に抜本策がない。旅行業者は価格差で誘導する手を使っていますが、移動しきれないほどの集中が起きているわけで。
原理的には通行料金をうまく値付けすれば捌ける(そのような均衡価格が存在するであろう)わけですが、自由に(子供込みの)休暇が取れないままで価格による均衡を目指せば国民の不満が。(^_^;)
45. e10go — March 7, 2008 @20:45:26
あのー、「e10goさん」でお願いします。「e10goさま」はちょと^^;
>私は渋滞しそうになったら料金を上げて流入を減らす"ダイナミック・ロード・プライシング"を推奨します。
これも、対策として有効と思います。
>これは(学校を含む)休暇の分散以外に抜本策がない。
これもまた、有効だと思います。
この他にも、道路(や既存道路の車線)を増やすのも対策になります。
何れも、臨界点に達するのを防ぐ目的として、有効だと思います。
46. ROCKY 江藤 — March 7, 2008 @23:52:29
NewScientistの記事にあるShockwave jamの描写は
”typically triggered by a single driver slowing down.
After that first vehicle brakes, the driver behind must also slow, and a shockwave jam of bunching cars appears, travelling backwards through the traffic."
と言うもので、一台の車が急ブレーキを掛けたことが連鎖的に後方の車の急ブレーキを招き、それが渋滞を招くと言うイメージに思えます。
ところがきくちさん達の研究は、
「かすかな速度ゆらぎでも渋滞へと転移します。現象としては、低密度では速度ゆらぎが後ろに伝わるにつれて減衰するのに対し、高密度ではゆらぎがうしろに伝わるにつれて拡大します。渋滞を決める本質的に重要なパラメータは密度であるということです。」
とのことで、急ブレーキのような唐突で予測不可能な行動ではなく、車の密度をある限界を超えると、個々の車の速度の間のかすかな揺らぎが渋滞を招くようになるとの理論だと理解しました。
すると、この現象はNewScientistの評者の言うshockwave jamとは別の現象だと考えてよろしいのでしょうか? それともshockwave jamというのは、渋滞の後方への伝播の仕方だけを形容していて、渋滞発生の原因とは関係ない呼び方なのでしょうか?
なんか衝撃波と言うと、ドッカンで始まって広がってゆくイメージがあるので、どうもきくちさん達の研究のようなケースを衝撃波に例えるのは唐突に思えてしまうのです。
47. BUNTEN — March 8, 2008 @06:59:19
(この話は激しく門外漢の自覚があるのでどうしてもさま付けになってしまう。orz)
英語も数学も不自由なもので実験論文見てもさっぱらりんこだったのですが、
にちゃんねるを徘徊していたら、日本語でコンパクトにまとまったものを発見。
http://news24.2ch.net/test/read.cgi/scienceplus/1204760239/31
英語わからんちんなので話半分に聞いてください。m(_@_)m
>Shockwave jam
上記日本語話の中に、トンネル渋滞はトンネル入り口からちょと離れた所から始まる
という話が出てきます。これ、衝撃波と似てませんか? 読みながらなんとなく
そーゆー気がしたのですが。
ついでに、ボトルネックなしで渋滞が発生しうるという説に懐疑的だが
この話(2ちゃんねるからリンクされた日本語論文)程度のことは説明を
受けたことがある人から構成される「世間」に対しては
>数理モデルに基づく「物理的解釈」がなかなか世間(^^)に受け入れてもらえないので、本物でやってみせたという「デモ」
として件の実験が有効かもしれんということがわかりましたです。m(_@_)m
48. ki — March 9, 2008 @07:33:13
テレビでも実験の様子は、ずいぶん前に見せていただいた記憶がありますが、
グラフや実データの映像を拝見すると、また興味深いものがあります。
車運転することのある生活者として抑えておくべき数字は、
平均25台/km=40mの車間距離より近づくと渋滞の可能性がある、
渋滞の粗密波の伝播速度は、車の進行方向と反対に20km/時くらい、
といったところでしょうか
あと論文のFigure 1の感想ですが、
いわゆるFreeFlow状態とJamFlow状態が、かなりはっきり分かれるのが1点と、
運転している感覚で言うと、速度が落ちてきたけど、まだ流れている状態というのも、このJamFlow状態に入るのかな(それとも過冷却?)、
といったところです。
数理モデルを探して考えてみるのも、面白いかも、と思い始めたところです。
49. マンガか — March 10, 2008 @21:44:45
人によっては、可積分であることを重視する人もいると思いますので。
ひょっとしたら、非線形波動の人にはいるかも。でも統計物理の人にはあまりいないでしょう。
> 自然でしょ。
私もそう思います。(少なくとも私の場合は)理解する側の都合としてなので、これは相対主義ですね。
そういう見方は私には理解しずらいと主張する人がいても、それはそれで仕方がない。
> 漸近的にはスケーリングでもなんでも処理できます。
「半径が大きい場合」であれば半径が無限大の場合で近似ができるという意味で、少なくともモデルの
上では処理可能だというのは、そうだろうと思います。半径無限大のモデルが有限半径のモデルよりも
普遍的であると見るのは、摩擦がない振り子モデルを普遍的と見るのと似たような感覚だと思います。
それよりもこの場合に気になるのは「実験のケースが半径が大きい場合に該当するのか、どうか」です。
振り子の場合で言うと、その実験は摩擦のない振り子の実験なのか?それとも減衰振動の実験なのか?
正確には、一つの実験では摩擦のない振り子の実験には決してならず、摩擦をどんどん小さくしていく
実験をしない限りは摩擦のない振り子の実験をしたことにはならないのかもしれませんけど。
50. マンガか — March 11, 2008 @00:29:40
周期のことではなくて【曲率】のことです。円ではなく直線であれば、曲率は
0です。漸近的という返答でしたので、恐らく誤解はなかったとは思いますが。
半径が大きければ定性的には(相転移抽像は)変わらないとは思いますけども、
半径有限モデルが無限モデルと全く同じだということではないのでしょうから。
51. いしやま — March 11, 2008 @01:47:55
今回のデモには、「文句あるなら自分で自由にパラメーターをいじって実際に追試をやってみろ。誰もが誰の断りも必要なく自由に追試ができて、今回の実験結果の肯定も否定も自由にできるために必要な実験条件はそろえてある」って土台作りがされてるって重要な要素があわけで、こっちの方が重要なんじゃないかと。