「KY総理」のキャラ分析―内なる熱さを秘めた黒子の未来やいかに―斎藤環(精神科医)(3)
2008年3月12日(水)09:26(2から続き)
政治家にとっては「所詮空気」
ところで私には、政治家に対する「KY」という批判が、まともな批判たりうるとはとても思えない。そもそも彼らがつねに空気を読もうと努力しているのかどうか。むしろ、「たかが空気」と考えている節すらあるのではないか。
政治家を「KY」と批判するときの「空気」とは、いったい何を指すのだろうか。世論の空気だろうか。政界の空気だろうか。この2つは時に重なり合うこともあるとはいえ、到底本質的に一致するものとは思われない。いずれにせよ、空気を読みすぎる政治家は、一貫したポリシーを維持できない。かつて政界の空気を読みすぎて風見鶏などと批判された政治家もいたはずだ。所詮空気とは、流れ去っていくものの謂ではないか。
そもそも小泉内閣こそは、史上まれにみる「KY内閣」ではなかったか。しかし、それゆえにこそ改革の空気を醸成するのに成功したという評価もある。だとすれば、「KY」は時に美質ですらあるはずだ。
そんな小泉元総理に比べれば、福田総理ははるかに「空気」に敏感だ。それは空気に振り回されるという意味ではない。また小泉氏のように、空気を作り出すことも考えてはいないだろう。福田氏がめざしているのは、おそらく、ゆっくりと確実に政治の「換気」をしていくことではないだろうか。だとすれば、この短いスパンで彼の可能性を評価してしまうべきではないようにも思う。
小泉元総理との決定的違い
ちなみにキャラといえば、私はかつて小泉元総理を「ウルトラマン宰相」と呼んでいた。破壊的かつ非コミュニカティブなヒーロー、というほどの意味だ。
精神医学的にいえば、小泉元総理は、典型的な分裂気質者である。分裂気質とは統合失調症(旧称:精神分裂病)に親和性が高い気質のことだ。これは精神病理学者エルンスト・クレッチマーの気質分類に基づいている。簡単にいえば、「独りで過ごすことが好きな、物静かな変わり者」というイメージになる。
じつは、私の知るかぎり、分裂気質の総理は空前の存在であり、おそらく絶後であるとも予想される。なぜなら、一般に政治家にとって、非社交性は致命的な欠点になりうるからだ。社交性を欠いたまま選挙に勝つのは難しい。まして政治家になって以降は、より高度な社交性が求められるようになる。
政治の現場が、高度なコミュニケーション空間であることはいうまでもない。たんに空気を読むどころか、その裏をかくような阿吽の呼吸や腹芸などに通じていなければ、とても生き残れない。そんな場所で、なにゆえ1人の特異な分裂気質者がイニシアチブを取りえたのかは、1つの大きな歴史の謎である。
一般に政治家の多くは、クレッチマーの分類における循環気質者である。その基本的特徴は、社交的で善良であり、親切で情味深いことであるとされている。社交性はともかく、政治家が「善良」で「親切」とはこれいかに、と疑問を感ずる向きもあろう。
しかしこれは、周囲と感情的に共振しやすく、対人関係において同調的かつ融和的である、というほどの意味だ。それゆえ悪い言い方をすれば、循環気質者の多くは付和雷同型で俗っぽく、なれ合いと妥協が得意で、色好みで食い意地が張っている、ということになる。これならば大きくうなずけるのではないだろうか。
いささか余談めくが、私は議会制民主主義の大きな欠点の1つが、この制度が圧倒的に循環気質者に有利につくられている、という点にあると考えている。多くの人々に支持されなければ政治家にはなれないが、この種の集団的な支持を取りつけるうえでは、循環気質者の情緒的な共振力がきわめて重要なのである。
前置きが長くなった。私の「診立て」では、福田総理もまた循環気質者であることは間違いない。たしかに小泉元総理との共通点も少なくはないが、決定的に異なっているのは、切断と破壊に終始した小泉氏に対して、福田氏は融和と調整に親和性が高い、という点だ。
福田氏の調整能力は、官房長官時代から定評があった。小泉政権で進められた官邸主導型の政治体制の下、各省庁や与党への対応や外交の調整、あるいは内閣のスポークスマンなどにおいて存在感を発揮し、2004年5月に年金未納問題で辞任するまでの在任日数は1289日と、歴代トップの記録である。
2000年に森内閣で内閣官房長官に就任した際には、同じく候補に挙がっていた小泉元総理の強い推薦があったというが、実際問題、小泉氏が官房長官になっていたとしても、これほど長期に務まったとは考えにくい。総理ならともかく、官房長官が孤高の壊し屋では皆が困る。
福田総理は、いかにも循環気質者らしく、小泉政権による「破壊」の事後処理、すなわち改革を定着させ、持続可能性を高めることを自らの使命と任じているようだ。ちなみに福田氏にとっては安倍内閣が「なかったこと」になっているらしいことは、2007年10月の所信表明演説中に「美しい国」「戦後レジーム」うんぬんの安倍用語が1つも出てこない、との田原総一朗氏の指摘からも窺える。
さらに穿った見方をすれば、安倍内閣の遺産を意図的に拒否しようとしている印象すらあるのだ。「KY発言」における公約軽視も、「あれは安倍さんがいったことでしょ」というニュアンスすら感じられる。教育現場ではきわめて評判の悪い「教育再生会議」の提言にしても、官邸主導で引き継ぐようだが、実態は大幅に様変わりすることになるだろう。もちろん改憲にもかなり慎重な構えを崩していない。
政治家にとっては「所詮空気」
ところで私には、政治家に対する「KY」という批判が、まともな批判たりうるとはとても思えない。そもそも彼らがつねに空気を読もうと努力しているのかどうか。むしろ、「たかが空気」と考えている節すらあるのではないか。
政治家を「KY」と批判するときの「空気」とは、いったい何を指すのだろうか。世論の空気だろうか。政界の空気だろうか。この2つは時に重なり合うこともあるとはいえ、到底本質的に一致するものとは思われない。いずれにせよ、空気を読みすぎる政治家は、一貫したポリシーを維持できない。かつて政界の空気を読みすぎて風見鶏などと批判された政治家もいたはずだ。所詮空気とは、流れ去っていくものの謂ではないか。
そもそも小泉内閣こそは、史上まれにみる「KY内閣」ではなかったか。しかし、それゆえにこそ改革の空気を醸成するのに成功したという評価もある。だとすれば、「KY」は時に美質ですらあるはずだ。
そんな小泉元総理に比べれば、福田総理ははるかに「空気」に敏感だ。それは空気に振り回されるという意味ではない。また小泉氏のように、空気を作り出すことも考えてはいないだろう。福田氏がめざしているのは、おそらく、ゆっくりと確実に政治の「換気」をしていくことではないだろうか。だとすれば、この短いスパンで彼の可能性を評価してしまうべきではないようにも思う。
小泉元総理との決定的違い
ちなみにキャラといえば、私はかつて小泉元総理を「ウルトラマン宰相」と呼んでいた。破壊的かつ非コミュニカティブなヒーロー、というほどの意味だ。
精神医学的にいえば、小泉元総理は、典型的な分裂気質者である。分裂気質とは統合失調症(旧称:精神分裂病)に親和性が高い気質のことだ。これは精神病理学者エルンスト・クレッチマーの気質分類に基づいている。簡単にいえば、「独りで過ごすことが好きな、物静かな変わり者」というイメージになる。
じつは、私の知るかぎり、分裂気質の総理は空前の存在であり、おそらく絶後であるとも予想される。なぜなら、一般に政治家にとって、非社交性は致命的な欠点になりうるからだ。社交性を欠いたまま選挙に勝つのは難しい。まして政治家になって以降は、より高度な社交性が求められるようになる。
政治の現場が、高度なコミュニケーション空間であることはいうまでもない。たんに空気を読むどころか、その裏をかくような阿吽の呼吸や腹芸などに通じていなければ、とても生き残れない。そんな場所で、なにゆえ1人の特異な分裂気質者がイニシアチブを取りえたのかは、1つの大きな歴史の謎である。
一般に政治家の多くは、クレッチマーの分類における循環気質者である。その基本的特徴は、社交的で善良であり、親切で情味深いことであるとされている。社交性はともかく、政治家が「善良」で「親切」とはこれいかに、と疑問を感ずる向きもあろう。
しかしこれは、周囲と感情的に共振しやすく、対人関係において同調的かつ融和的である、というほどの意味だ。それゆえ悪い言い方をすれば、循環気質者の多くは付和雷同型で俗っぽく、なれ合いと妥協が得意で、色好みで食い意地が張っている、ということになる。これならば大きくうなずけるのではないだろうか。
いささか余談めくが、私は議会制民主主義の大きな欠点の1つが、この制度が圧倒的に循環気質者に有利につくられている、という点にあると考えている。多くの人々に支持されなければ政治家にはなれないが、この種の集団的な支持を取りつけるうえでは、循環気質者の情緒的な共振力がきわめて重要なのである。
前置きが長くなった。私の「診立て」では、福田総理もまた循環気質者であることは間違いない。たしかに小泉元総理との共通点も少なくはないが、決定的に異なっているのは、切断と破壊に終始した小泉氏に対して、福田氏は融和と調整に親和性が高い、という点だ。
福田氏の調整能力は、官房長官時代から定評があった。小泉政権で進められた官邸主導型の政治体制の下、各省庁や与党への対応や外交の調整、あるいは内閣のスポークスマンなどにおいて存在感を発揮し、2004年5月に年金未納問題で辞任するまでの在任日数は1289日と、歴代トップの記録である。
2000年に森内閣で内閣官房長官に就任した際には、同じく候補に挙がっていた小泉元総理の強い推薦があったというが、実際問題、小泉氏が官房長官になっていたとしても、これほど長期に務まったとは考えにくい。総理ならともかく、官房長官が孤高の壊し屋では皆が困る。
福田総理は、いかにも循環気質者らしく、小泉政権による「破壊」の事後処理、すなわち改革を定着させ、持続可能性を高めることを自らの使命と任じているようだ。ちなみに福田氏にとっては安倍内閣が「なかったこと」になっているらしいことは、2007年10月の所信表明演説中に「美しい国」「戦後レジーム」うんぬんの安倍用語が1つも出てこない、との田原総一朗氏の指摘からも窺える。
さらに穿った見方をすれば、安倍内閣の遺産を意図的に拒否しようとしている印象すらあるのだ。「KY発言」における公約軽視も、「あれは安倍さんがいったことでしょ」というニュアンスすら感じられる。教育現場ではきわめて評判の悪い「教育再生会議」の提言にしても、官邸主導で引き継ぐようだが、実態は大幅に様変わりすることになるだろう。もちろん改憲にもかなり慎重な構えを崩していない。
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