「KY総理」のキャラ分析―内なる熱さを秘めた黒子の未来やいかに―斎藤環(精神科医)(2)
2008年3月12日(水)09:23(1から続き)
「ツンデレ執事」キャラ
唐突だが、福田総理は「ツンデレ執事」キャラである。
いきなり何を言い出すのかと思われるかもしれないが、じつは私は精神分析よりもキャラ分析のほうが得意なので、まずは福田総理のキャラを分類してみた、というわけだ。
キャラといえば思い出されるのは、2007年9月に安倍総理の突然の辞任を受けて行なわれた自民党総裁選である。周知のとおり、結果は330票を得た福田氏の圧勝だった。しかし私が注目したのは、対立候補だった麻生太郎氏の「キャラ」発言である。記者会見で麻生氏はこういったのだ。「私は非常にキャラが立ちすぎているが、福田氏はあまりそうじゃない」と。
「キャラが立つ」とは、もともと漫画業界で使われていた表現だ。印象的な性格造形で登場人物の個性を際立たせる、というほどの意味だが、お笑い業界でも使用されるようになって一般にも浸透した。そんな「専門用語」をさらりといってのけるサブカルチャー通ぶりも、若者の麻生人気を高めただろう。
しかし私は、むしろ麻生氏の半可通ぶりに嫌な印象を受けた。本当にサブカルチャーに詳しければ、福田氏がネット上で何と呼ばれているか知らないはずがない。
そう、福田氏は某巨大匿名掲示板などを中心に、しばしば「フフン」と呼ばれていた。「フフン」とは、官房長官時代から、記者会見などで垣間見せる冷笑的態度のことだ。あの皆を平等にバカにしているような態度が、一部でかなり人気を集めていたのだ(ちなみに麻生氏は「ローゼン閣下」と呼ばれていた。その理由はネット検索でどうぞ)。
官房長官時代のさまざまな「福田語録」には、政治家にありがちな失言も含まれるが、全般によくいえば冷静沈着で醒めた視線を感じさせ、悪くいえばニヒリスティックで冷笑的な印象を残すものが多い。少なくとも誠実で真面目だが没個性、というだけの「キャラ」ではけっしてない。ネット上にはそうした「語録」が集められているので、そのなかからいくつかピックアップしてみよう。
田中眞紀子騒動に対しては「茶番だな」「糸の切れた凧みたいに何をいうか分からない人は危なくて出せない」。『朝日新聞』の誤報道について問われ「まあ、お金を出して買った新聞ですから信じたい気持ちも解りますが……」。解散総選挙の低投票率について問われて、「数日前の世論調査で『自民党優勢』と新聞が書いたから安心したんじゃないですか?」「まあ、地域ごとに違うから、細かく分析しないと。お得意の出口調査でもなんでもやってみてください」。反小泉を掲げた野中広務氏の引退宣言に「まだ現役なんでしょ。せいぜい頑張っていただきたい」。官房長官の在任期間が歴代トップに並んだ日の会見では、「『影の外務大臣』、『影の防衛庁長官』だなんて、いろいろ名前がありますね。まあ所詮、影ですから」。
おわかりのとおり、じつに見事な「キャラ立ち」ぶりである。
じつはこのタイプのキャラは、近年とみに人気を集めている「ツンデレ」と呼ばれるキャラに近い。ツンデレとは、アニメや漫画、ゲームなどに登場するキャラクター属性の1つである。さまざまな定義や解釈があるが、ここはあえて私の解釈を記しておこう。表面的には冷淡でキツい性格(=ツン)の美少女が、ふとしたはずみに好意的感情を垣間見せる(=デレ)ような場合、そのギャップが独特の魅力をもたらす。このような二重性をもったキャラクター造形を総称して「ツンデレ」と呼ぶのだ。
福田総理のキャラクター分類として、これ以上のものはないように思われる。表面的にはきわめてクールで冷笑的、とりわけ北朝鮮の拉致被害者家族に対する冷淡な対応ぶりは、いまだに語り草だ。しかし完全な冷血人間かと思いきやさにあらず、けっこう人間くさい面もある。
たとえば官房長官時代の業績の1つに、ハンセン病患者の隔離政策見直しがある。2001年に熊本地裁で「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」で国が敗訴した際、福田官房長官は厚労省と調整のうえで小泉総理に進言し、控訴を断念させた。つまり控訴断念の影の立役者だったわけで、黒子としてこういう活動をしているなら、本当は人間味のあるキャラなのではないか、とも考えられるのだ。
ならば「執事」についてはどうだろうか。
じつは「執事」も、漫画やアニメ界隈では、きわめて人気の高いキャラクター属性の1つなのである。テレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』に登場するゼーゼマン家の執事・セバスチャンが人気を集め、以後、この日本人には馴染みの少ない職業が、アニメのなかでは定番化していった。執事好きの女子向けに、「メイド喫茶」ならぬ「執事カフェ」なるものまで存在するという。
後述するとおり福田氏は、基本的に黒子志向の人である。官房長官としてきわめて有能であったというのも、この黒子志向を抜きには考えられない。小泉元総理のような強力なリーダーに仕えるときに、彼の能力は100%発揮される。つまり、きわめて有能な執事キャラでもあるのだ。それゆえある時期まで福田氏が総理になるつもりはなかったというのは、おそらく事実だろう。
表向きはクールで冷笑的でありながら、人間くささを垣間見せる低姿勢の黒子。以上で、かつての福田人気の本質が、その「ツンデレ執事」キャラによって十分に説明できることが証明された。過去の経歴における「心ならずも政治家に」「心ならずも総理に」といった経緯も、嫌々エヴァに乗るハメになる碇シンジのようで(わからない人すみません)、萌え心を加速する。およそ現代において、もっとも強力な二大「萌え属性」を兼ね備えた福田総理が、人々に支持されないわけがない。その意味で、福田氏の総理就任は必然的なものだったともいえる。少なくとも「KY発言」までは。
「ツンデレ執事」キャラ
唐突だが、福田総理は「ツンデレ執事」キャラである。
いきなり何を言い出すのかと思われるかもしれないが、じつは私は精神分析よりもキャラ分析のほうが得意なので、まずは福田総理のキャラを分類してみた、というわけだ。
キャラといえば思い出されるのは、2007年9月に安倍総理の突然の辞任を受けて行なわれた自民党総裁選である。周知のとおり、結果は330票を得た福田氏の圧勝だった。しかし私が注目したのは、対立候補だった麻生太郎氏の「キャラ」発言である。記者会見で麻生氏はこういったのだ。「私は非常にキャラが立ちすぎているが、福田氏はあまりそうじゃない」と。
「キャラが立つ」とは、もともと漫画業界で使われていた表現だ。印象的な性格造形で登場人物の個性を際立たせる、というほどの意味だが、お笑い業界でも使用されるようになって一般にも浸透した。そんな「専門用語」をさらりといってのけるサブカルチャー通ぶりも、若者の麻生人気を高めただろう。
しかし私は、むしろ麻生氏の半可通ぶりに嫌な印象を受けた。本当にサブカルチャーに詳しければ、福田氏がネット上で何と呼ばれているか知らないはずがない。
そう、福田氏は某巨大匿名掲示板などを中心に、しばしば「フフン」と呼ばれていた。「フフン」とは、官房長官時代から、記者会見などで垣間見せる冷笑的態度のことだ。あの皆を平等にバカにしているような態度が、一部でかなり人気を集めていたのだ(ちなみに麻生氏は「ローゼン閣下」と呼ばれていた。その理由はネット検索でどうぞ)。
官房長官時代のさまざまな「福田語録」には、政治家にありがちな失言も含まれるが、全般によくいえば冷静沈着で醒めた視線を感じさせ、悪くいえばニヒリスティックで冷笑的な印象を残すものが多い。少なくとも誠実で真面目だが没個性、というだけの「キャラ」ではけっしてない。ネット上にはそうした「語録」が集められているので、そのなかからいくつかピックアップしてみよう。
田中眞紀子騒動に対しては「茶番だな」「糸の切れた凧みたいに何をいうか分からない人は危なくて出せない」。『朝日新聞』の誤報道について問われ「まあ、お金を出して買った新聞ですから信じたい気持ちも解りますが……」。解散総選挙の低投票率について問われて、「数日前の世論調査で『自民党優勢』と新聞が書いたから安心したんじゃないですか?」「まあ、地域ごとに違うから、細かく分析しないと。お得意の出口調査でもなんでもやってみてください」。反小泉を掲げた野中広務氏の引退宣言に「まだ現役なんでしょ。せいぜい頑張っていただきたい」。官房長官の在任期間が歴代トップに並んだ日の会見では、「『影の外務大臣』、『影の防衛庁長官』だなんて、いろいろ名前がありますね。まあ所詮、影ですから」。
おわかりのとおり、じつに見事な「キャラ立ち」ぶりである。
じつはこのタイプのキャラは、近年とみに人気を集めている「ツンデレ」と呼ばれるキャラに近い。ツンデレとは、アニメや漫画、ゲームなどに登場するキャラクター属性の1つである。さまざまな定義や解釈があるが、ここはあえて私の解釈を記しておこう。表面的には冷淡でキツい性格(=ツン)の美少女が、ふとしたはずみに好意的感情を垣間見せる(=デレ)ような場合、そのギャップが独特の魅力をもたらす。このような二重性をもったキャラクター造形を総称して「ツンデレ」と呼ぶのだ。
福田総理のキャラクター分類として、これ以上のものはないように思われる。表面的にはきわめてクールで冷笑的、とりわけ北朝鮮の拉致被害者家族に対する冷淡な対応ぶりは、いまだに語り草だ。しかし完全な冷血人間かと思いきやさにあらず、けっこう人間くさい面もある。
たとえば官房長官時代の業績の1つに、ハンセン病患者の隔離政策見直しがある。2001年に熊本地裁で「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」で国が敗訴した際、福田官房長官は厚労省と調整のうえで小泉総理に進言し、控訴を断念させた。つまり控訴断念の影の立役者だったわけで、黒子としてこういう活動をしているなら、本当は人間味のあるキャラなのではないか、とも考えられるのだ。
ならば「執事」についてはどうだろうか。
じつは「執事」も、漫画やアニメ界隈では、きわめて人気の高いキャラクター属性の1つなのである。テレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』に登場するゼーゼマン家の執事・セバスチャンが人気を集め、以後、この日本人には馴染みの少ない職業が、アニメのなかでは定番化していった。執事好きの女子向けに、「メイド喫茶」ならぬ「執事カフェ」なるものまで存在するという。
後述するとおり福田氏は、基本的に黒子志向の人である。官房長官としてきわめて有能であったというのも、この黒子志向を抜きには考えられない。小泉元総理のような強力なリーダーに仕えるときに、彼の能力は100%発揮される。つまり、きわめて有能な執事キャラでもあるのだ。それゆえある時期まで福田氏が総理になるつもりはなかったというのは、おそらく事実だろう。
表向きはクールで冷笑的でありながら、人間くささを垣間見せる低姿勢の黒子。以上で、かつての福田人気の本質が、その「ツンデレ執事」キャラによって十分に説明できることが証明された。過去の経歴における「心ならずも政治家に」「心ならずも総理に」といった経緯も、嫌々エヴァに乗るハメになる碇シンジのようで(わからない人すみません)、萌え心を加速する。およそ現代において、もっとも強力な二大「萌え属性」を兼ね備えた福田総理が、人々に支持されないわけがない。その意味で、福田氏の総理就任は必然的なものだったともいえる。少なくとも「KY発言」までは。
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