メイドの次は執事の時代--。東京・池袋のアニメショップなどが立ち並ぶ通称「乙女ロード」で、上品な「執事」にかしずかれ、お嬢様気分が味わえる「執事喫茶」が女性の人気を集めている。完全予約制で、1カ月間はすべてキャンセル待ち状態という人気店「スワロウテイル」を体験した。【河村成浩】
「スワロウテイル」は05年3月、コミックや同人誌などの専門書店を展開する「ケイ・ブックス」(大塚洋子社長)が開設した。当時は、メイド喫茶が流行語大賞にもノミネートされるなどブームになっていた時期だった。女性のオタクが集まる「乙女ロード」での新企画として、「執事喫茶」のアイデアが出され、出店が実現した。
同社の大塚健会長が「やるからには“本物”を」と、フランスで修行を積んだパティシエに手作りケーキを依頼し、紅茶も茶葉から厳選。木の温かみをベースにした落ち着いた色調で統一した店内に、マイセンやウェッジウッドなどの高級食器をそろえた。
もちろん「執事」の教育にも力を入れている。国内外の一流ホテルの勤務経験を持ち、愛知万博で皇族や外国賓客へのサービスの担当者をマナー講師に招き、紅茶や食器の知識、もてなしの態度など約2カ月間の本格的な訓練を積ませ、テストに合格するまで店には出さないというこだわりだ。
オープン当初から女性の口コミでうわさが広がり、半年で店を3倍に改装するほどの人気を集めた。1カ月以上先まで予約がいっぱいの状態が続いている。
店内に足を踏み入れると、「執事」が深々と頭を下げ、「お帰りなさいませ」というあいさつで出迎える。持っているカバンやスーツを渡し、「執事」に導かれてふかふかの赤じゅうたんが敷かれた店内を進む。いすを引いてもらって席に着くと、ひざにナプキンをかけてくれる。もちろん「執事」を呼ぶときは卓上のベルを鳴らす。
「執事」に「チーズの入っていない料理は?」とたずねると、次々と料理を説明してくれる。鳴門きんときイモのロールケーキとバラのジュレ、野菜のジェラートがセットになった「アダム」と、セイロンティーを注文。英国製エインズレイの青のティーカップに、ピシッと背筋が伸びた姿勢で、お茶を注いでくれる。ポットを持つ「執事」の指先まで意識して、見ているだけで優雅な気分になる。熱すぎもぬるくもなく、香り高く、雑味のない味はまさに本格派。もちろんカップの残りが少なくなれば、すかさず「執事」が紅茶を注ぎにやってくる。
スイーツも見事で、特に野菜のジェラートは絶品。大根のしんの部分だけを使い、歯応えを残しながら、素材の甘みを存分に引き出していた。
満員の店内は私以外すべて女性客。本を読んだり、友達とおしゃべりを楽しんだりしているが、店内は実に静かで、本当にリラックスできる。客までが上品になってしまう空間が作り出されている。70分を過ぎると、「執事」がやってきて、「お出かけの時間でございます」と声をかけ、「いってらっしゃいませ」と送り出される。
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体験して、「執事」の質の高さに驚かされた。すべるように静かな足運び、一流ホテルのような斜め45度のおじぎなど、全員が見事な所作を身に着けており、紅茶の香りだけで種類が分かるという専門知識を持ち、紅茶専門店へ転職した「執事」もいたそうだ。阿部文子専務は「『なんちゃって執事』では、絶対に飽きられます。本物の『空間』にするには、料理や雰囲気、そして『執事』にこだわることが大事です」と話す。
1回80分で2600円。高いとは全く感じず、人気ぶりも納得した。2号店やチェーン展開の可能性を聞くと、阿部専務は「これだけの質を保つのは難しいですね」と苦笑いする。「執事」のサービスを受けたければ、1カ月先の予約を気長に待つしかなさそうだ。
2007年11月2日