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2008年03月12日(水曜日)付

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日銀総裁人事―腑に落ちぬ不同意の理由

 注目の日本銀行総裁人事で、民主党は政府が提案した武藤敏郎副総裁の昇格に同意しないことを決めた。

 他の野党も不同意の方針なので、きょうの参院本会議で人事案は否決される見通しだ。福井俊彦総裁の任期切れが19日に迫っている。なのに政府は後任を決められない。なんとも異例の事態を迎えることになる。

 私たちは民主党に対し、大局的な見地からこの人事を慎重に検討するよう求めた。きのう武藤氏らが国会で所信を述べてから時を置かず、不同意を決めたのは残念というよりない。

 人事に反対する最大の理由は、「ミスター財務省」と呼ばれた武藤氏の出自にあるようだ。

 日本の金融政策のかじ取りにあたっては、財政当局や与党の圧力をはねかえす強い独立性が必要だ。武藤氏は財務省にいたころ、財政と金融の分離を妨げるような議論をしていたのではないか――。そんな主張である。

 もう一つ、武藤氏が副総裁としてこれまでの超低金利政策を支えてきたことも批判している。不良債権に苦しむ金融機関などに有利な環境をつくる一方で、預金者の利子所得を奪うなど家計に深刻なしわ寄せを生んだということだろう。

 野党とはいえ、目指す政策がある以上、それにそぐわない人事に反対するのは理のないことではない。

 だが、ことは日本の金融政策の司令塔をだれにするかという問題だ。民主党の反対理由を聞いても、政府が最終的に任命責任を負う重い人事を覆すほどの説得力があるとは思えない。

 国会の所信聴取で、武藤氏は日銀の独立性の確保を明快な言葉で語ったし、副総裁としての5年間にそれを疑わせるような言動はうかがえなかった。金利政策にしても、福井総裁の下でのことであり、基本的にはデフレ脱却のためのやむを得ない策だったと私たちは考える。

 さらに腑(ふ)に落ちないのは、今回の不同意方針に福田首相を追い詰めようとの政局絡みの思惑が感じられることだ。

 このまま突き進めば、民主党も返り血を浴びかねない。円高と株安が連鎖的に続く不安定な経済情勢を見れば、日銀総裁人事が混迷するマイナスは大きい。まして空席になるとすれば、首相の責任だけでなく、民主党も責めを負わねばなるまい。

 むしろ、国民の多くが野党に期待するものは別のところにあるのではないか。それはガソリン暫定税率や道路特定財源の固い岩盤に穴をあけ、納得できる修正案をまとめることだ。

 民主党が主導権を握る参院に舞台が移ったいまこそ、徹底的に政府与党に論戦を挑み、存在感を見せるべきだ。そう感じる人は少なくないはずだ。

 もう一度、民主党に問いたい。ここが政権とことを構える勝負どころなのか。大局的な判断をすべき時だ。

新銀行東京―石原氏も同罪ではないか

 貸し先企業の倒産などで、融資額の1割が焦げ付いた。放漫融資への批判や疑問から大半の役員が退任――。

 新銀行東京の惨状を伝えるデータや新事実が、次々と噴出している。

 都が出資した1000億円の大半が貸し倒れや赤字の累積で失われ、400億円を追加出資する議案が都議会に出された。内部調査の報告書も都議会に示された。そのなかで、当初から銀行の体をなさない状態だったことが露呈した。

 「無担保・無保証」を売り物に、資金繰りに窮した企業へ即断即決で融資した。融資件数が増えれば不良債権比率は低下する、と安易に想定して突っ走った。新規融資の実績をあげた行員には最大で年200万円の成果手当を出し、融資から半年以上たっていれば返済が滞っても担当者の責任は問わない。

 上層部は「半年つぶれない会社だったらどんどん貸せ」と現場にハッパをかけ、監査法人が決算で貸し倒れ引当金の不足を指摘しても、黙殺した。驚くばかりの無軌道ぶりである。

 石原慎太郎都知事はこんな暴走経営の責任を、初代の経営トップだった仁司泰正氏らに帰している。報告書は、都の責任には一切触れていない。

 仁司氏らの経営責任は厳に追及するべきだ。だが、トヨタ自動車の出身で銀行の経験がない仁司氏に新銀行の経営を任せて、ひとごとのように責任をあげつらう石原知事の言葉にも耳を疑う。

 そもそも、新銀行は石原知事の2期目の公約だった。「ほかの銀行が逆立ちしてもできないことをやる」と啖呵(たんか)を切って設立した。「石原銀行」とさえ呼ばれる。昨春の3期目の知事選では「2年で経営を立て直す」と宣言したのに、1年もたたずにこの体たらくだ。

 無担保・無保証の迅速融資とか、開業後3年で黒字化するとの無理な事業計画は、都が作成した「新銀行マスタープラン」に盛られていた。レールを敷いたのは都であり、仁司氏らがその上を走った、というべきだ。

 報告書をまとめた新銀行の現トップは、かつて都で新銀行発足の責任者を務めていた。旧経営陣に責任をなすりつけたいという意図が露骨ではないか。

 ならば、都議会に仁司氏を呼び、石原知事の意向や都の方針と現場の放漫ぶりがどのような関係にあったのか、徹底して解明する必要があろう。

 もう、新銀行の存続は困難だ。追加出資後は融資を4分の1に減らし、収益の方は2倍にするという。手品ではあるまいし、ありえない。金融庁の資産査定を受けたうえで、清算を急ぐべきだ。

 石原知事は、清算すると1000億円以上かかるという。だが、出資した1000億円はすでにほぼ消えた。無理に存続させ赤字を重ねるよりも、いま清算した方が最終的な損失は小さくなるはずだ。

 石原氏は清算を決断したうえで、自らの責任を明らかにしなければならない。

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