2008年3月9日
人権擁護法案/「国旗国歌」も危うくなる
人権擁護法案を今国会に提出しようとする動きが自民党内でにわかに高まっている。だが、同法案は人権擁護が恣意(しい)的に利用され、言論弾圧や逆差別を招いたり社会秩序を壊しかねないと指摘され、二〇〇三年に廃案、〇五年に再提出が断念された、いわく付きのものだ。それをなぜ国会提出を急ぐのか、甚だ疑問である。
あいまいな委員選出基準
差別や虐待などの人権侵害が生じれば速やかに救済するのは言うまでもない。そのために現行の司法制度があり、個別法としては「児童虐待防止法」(二〇〇〇年)や「配偶者暴力(DV)防止法」(〇一年)、「高齢者虐待防止法」(〇五年)などがある。それなのになぜ、新たに法律が必要なのか。
人権擁護法案は、人権侵害の救済や防止を図るために法務省の外局として人権委員会を設置しようというものだが、人権侵害の定義があいまいな上に「助長、誘発」の禁止もうたっていることから、恣意的な拡大解釈が危ぶまれる。
また人権委に令状なしでの関係資料の押収や立ち入り権限を与え、それを拒否すれば罰金(三十万円以下)も科せられる。これは警察も持たない強制権力で、現行の司法体制を逸脱している。
しかも、人権委のメンバーは弁護士会や「人権団体」の構成員などから選ぶとしており、選出基準があいまい極まりなく、国籍条項すらない。これでは北朝鮮の拉致事件に関与した外国人でも委員になることが可能で、外国勢力が公権力を行使しかねない。
このまま人権擁護法案が成立すれば、公立学校での「国旗国歌」も危うくなる。東京弁護士会は「人権侵害」の例として、公立小学校の音楽教諭に国歌の伴奏を「強制」することや、公立中学校長が卒業式で国歌斉唱を「強制しない」と事前に生徒に説明しなかった行為などを挙げているからだ。
この問題では東京都と左翼教組の一部教師らが対立している。「不起立」などで処分を受けた教師らは都人事委員会に処分取り消しの審査請求や裁判所に訴訟を起こしたりしているが、人権擁護法ができると人事委員会(東京弁護士会などの推薦委員が加わる)に訴え、これを同委が認めれば、学校に令状もなく立ち入って資料を押収し、それを拒否した校長が罰金を科せられる事態も生じる。
また東京弁護士会は〇五年三月、東京都国立市立第二小の卒業式での「校長土下座」を報じた産経新聞社(二〇〇〇年四月五日付)に対して「児童の権利が侵害された」として改善勧告を行っている。現行制度ではこの勧告に法的拘束力はないが、人権擁護法ができれば人権委が産経新聞社に令状なしで立ち入り、パソコンや取材資料を押収することも可能となる。
推進派は法案が同和対策としても必要と主張している。政府の地域改善対策協議会が一九九六年に「同和対策の基盤整備は概ね完了した」として新たな対策の取り組みを求める意見書を提出したからで、「差別で泣いている人がいる」として早期成立を促す人もいる。それならば、それはそれでしっかりと実情を把握し分析して対応すればいいことだ。
問題多く慎重な対応を
また国連規約人権委員会が九八年に政府から独立の人権救済機関設立を日本政府に勧告したことを根拠にしているが、勧告は主に警察や出入国管理局、刑務所などの公権力による人権侵害の救済措置を求めたもので、救済機関に強制権限を与えよともしていない。
人権擁護法案には問題が多いことから、慎重な対応が求められる。