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生きる証しを:無国籍の悲痛/1 出生届、市は不受理

 ◇「やむを得ず」祝い金

 「やむを得ず制度の資格認定の取り扱いをする」。07年7月30日午後。三重県亀山市役所保険年金室の窓口横で、室長から示された出産育児一時金などの支給を約束する「確認書」にはそう書かれていた。

 市内の女性(37)は2週間前の16日に男児を出産したばかり。この日が出生届の提出期限だった。「やむを得ず……」。今読み返せば、市の姿勢をこれほど率直に表した言葉はないと思うが、その時は考える余裕がなかった。

 「署名してください」。室長に促され「子供のために」と書面に子供の名前と自分の名前を書いた。女性の手には離婚後300日規定により受理されなかった男児の出生届。子供の名前は、その届けと同じ現夫(46)の姓でサインした。

   ■

 03年8月に結婚した工場作業員の前夫は生活費をほとんど入れなかった。派遣社員の自分の稼ぎが頼り。前夫はたびたび暴力をふるった。自宅アパートのドアを壊され、近所の人が警察に通報したこともある。

 実家に戻り別居してから、偶然知り合った新聞販売店従業員の現夫に悩みを相談するうちに親しくなった。前夫に離婚を持ちかけたが「(自分が)離婚しなければ再婚できない」「相手を見つけたら殺してやる」と応じてくれない。

 約2カ月にわたる説得で、離婚届提出に同意したのは06年3月。しかし、実際に前夫から届けが出されたのは同11月だった。互いの年齢を考え「早く子供を」と不妊治療まで受けて現夫の子を妊娠したのは、その1カ月前。再婚を経て、産んだのは離婚後243日目。離婚前妊娠のため法務省通達では救済されないケースだった。

   ■

 「国の法律なので動けない」「今の夫の子と明らかになるまでは医療サービスはできない」……。すがる思いで、妊娠中から何度も市役所に足を運んだが、市の対応は素っ気なく、「他の自治体では受けられていますよ」と問いつめても「確認します」の返事だけだった。

 4カ月の健診の案内は来なかった。夫の親せきの小児科医を頼り、何とか受けることができたが、予防接種は一部だけ。育児教室の開催は、他人が出した古新聞の束に入ったチラシをたまたま見て知った。

 確認書で受けられるはずのサービスは、普通なら事前通知があるが一切ない。新聞のチラシにはさまれる市の広報が頼りだ。「この子の将来はどうなるのか」。子供の笑顔は励みだが、行く末を考えると気が気でない。=つづく

 ×   ×

 生まれ暮らしているにもかかわらず、公的に存在を証明されない子供たち。毎日新聞の調査で、離婚後300日規定によるものだけで少なくとも127人いることが判明したが、全体人数は誰にも分からない。なぜ無戸籍になるのか、どんな不安を抱え、不都合があるのか。日常を追い実態に迫る。

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毎日新聞 2008年3月12日 東京朝刊

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