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2008年3月12日

◎医師確保で隣県連携 「北陸医療圏」を構築したい

 石川県が医師不足問題に関連し、富山、福井県と医療連携協議を始める意向を示したの は、救急搬送の広域ネットワーク整備や、がん専門医養成の三県連携など近年の動きを考えれば自然な流れである。北陸三県にはそれぞれ医療の得意分野があり、現場レベルでは患者を紹介し合うなど結び付きは強まっている。貴重な医療資源を地域全体で有効に生かすためにも「北陸医療圏」という広域的な枠組みを構築していきたい。

 地域医療計画は都道府県ごとに策定され、行政レベルでは「一県完結型」の医療体制に なっている。だが、実際には県境を越えた受診は珍しくなく、富山県の患者が金大などを訪れている。そうした受診の実態は県単位の医療計画の中では十分に反映されていないのが現状である。北陸三県の大学が協力し、がん専門医を養成する「北陸がんプロフェッショナル養成プラン」が動き出しているが、高度ながん医療や専門医養成もまた広域的なネットワークを要する分野である。

 金沢市が小矢部、南砺、砺波市と災害時相互応援協定を締結し、加賀市、あわら市でも 消防間の協定が結ばれている。災害発生時の協力では当然、救急搬送システムの共有も課題となる。このように患者本位で医療提供体制を突き詰めていけば、県の縦割りはむしろ障害になりかねないケースがある。

 医療で隣県連携の実を挙げるには医師供給源としての金大の役割は極めて重要である。 人材供給の面では金大を中心とした「北陸医療圏」がすでに形成されており、そうした人的ネットワークは新たな協力関係を築くうえで何よりの強みとなる。医師確保に関して言えば、金大が北陸の中枢機能を担っていく必要があろう。

 全国的には、島根県が新年度から五年間の保健医療計画の中で鳥取、広島、山口三県と の連携を打ち出した。病状などに応じ、隣県の病院も視野に入れて機能分担を図る方針である。北陸でも県境を越えた協力は救急や産科などの現場レベルで臨機応変に行われてきたが、行政が認識を共有することで実効性は格段に高まる。生活に最も密接な医療分野でのつながりは三県の信頼関係を深めることにもなろう。

◎代理出産の是非 原則禁止もやむを得ない

 いわゆる「代理出産」には、依頼者の夫婦の精子と卵子を体外受精させ、その初期胚( はい)を他の女性のおなかに移植して出産してもらう方法や、他の女性のおなかを借りて夫の精子を用いた人工受精で出産してもらう方法とがある。この出産の最大の問題点は子供にとって幸福な方法と断定できないことのように思われる。

 その意味で、日本学術会議の生殖補助医療の在り方検討委員会が代理出産を原則禁止と し、営利目的で代理出産をした場合、関係者を処罰するとの最終報告書案をまとめたことについて、やむを得ないと理解する。

 原則禁止としたものの、社会の変化などを考慮して公的機関の管理の下で「試行的」に 実施することを認めたのも妥当といえる。

 医師の間では反対ばかりでなく、是認する意見もあり、それは「代理母を生殖の手段と することはいけないことだが、その倫理面を補う以上の理由を有し、その危険性を最大限軽減するよう配慮すれば容認できる」というものである。

 が、先行して行われている米国などでは生まれてきた子供に障害があって、引き取り手 がなく、やむなく施設に収容されるといったことや、サロゲート・マザーといって、産んだ子供と遺伝的なつながりを持つ代理母が子供を依頼者に渡すのを拒み、裁判ざたになることなどもあるといわれる。

 そもそもこの問題が、わが国で浮上してきたのは、タレント夫婦が米国の女性に代理出 産を依頼し、生まれた双子を自分たちの子供として提出した出生届が拒否されたことから最高裁まで争ったり、子宮を切除した娘に代わって五十歳代の女性が子供(孫)を代理出産したことが長野県で起きたりしたからだった。

 日本の法律では出産した者が母親と規定されているほか、日本産科婦人科学会が代理出 産について禁止の会告(指針)を出しているのだが、裁判で争うケースが出てきたのだ。厚生労働省と法務省は放置できず、代理出産について法制化を含めた是非の検討を依頼したのだった。最終案が学術会議を経て政府に提出されれば法制化への動きとなるのだが、政府にも国会にも重たい問題だ。当面は最終案でいくしかあるまい。


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