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2008年3月12日

 現金五十九億円を段ボール箱に詰めると、五十箱分になるそうである。父親の巨額の遺産を物置に隠し、相続税約二十九億円を脱税した容疑で大阪の姉妹が逮捕された

遺産の札束は「十億円までしか数え切れなかった」とうそぶいたとか。ねたましさを通り越して、ばかばかしくなる。世に役立たせる金の使い道がたくさんあるだろうに、金に取りつかれた人はそんなものか

寺社や恵まれない人に金や物を施すことを「喜捨」という。金沢生まれの仏教思想家・鈴木大拙の言葉に「苦捨」というのがある。若いころ、同郷の友人の支援で米国留学を続けることができたのだが、その友人も困窮の中で金を工面した。「あれは喜捨ではなく、苦捨だった」と、回想にある

金のありがたさを知った大拙は、膨大な著作の著作権を財団にゆだねるなどして、資産をほとんど残さなかった。友の「苦捨」が育ててくれた学問の実りを、そっくり社会にお返しした

格差社会と言われる昨今である。恵まれない人への配慮だけでなく、豊かな人が富をどう生かすかも、問われているに違いない。「喜捨」や「苦捨」が、死語にならないためにも。


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