セキュリティ特集 2008春 止まらない情報漏洩、進化した詐欺、子どもが危ない Yahoo! JAPAN
詐欺に勝つ これでカンペキ、情報漏えい対策 巨大産業になったチャイルドポルノ
子どもが危ない ユニセフの取り組み  
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ネット上に氾濫する児童ポルノ
子どもが危ない 性暴力の被害現場の画像を世界中にばらまかれる少女たち

少女を騙し、陵辱の限りを尽くして撮影される児童ポルノ。一度、撮影されればインターネット上で際限なく量産され、少女の人生を狂わせる。少女を悪魔の餌食にするな。

国際社会から非難を浴びた日本

 狭く薄暗いホテルの一室。時折手ぶれするカメラがアップで映し出す顔は、まだあどけない。
「名前は?」
「○○」
「年齢は?」
「13歳」
「バストは?」
「Bの……」
 男の質問に答えながら、少女は一瞬目を伏せ、くちびるをかむ。次の場面。後ろから現れた裸の男が少女をベッドに倒して制服を剥ぎ取り、口に猿轡をはめた。

 それから映される行為は陵辱の限りを尽くしている。ポルノ俳優によるアダルトSMビデオなどではない。「出演」させられているのは本当の中学生。そして男優役は大手清酒メーカーの総務課長、カメラを回すのはJRの契約社員だ。

 この映像は児童買春という犯罪行為の一部始終にほかならない。しかし、こうした映像が「作品」として日常的に撮影、複写され、マニアに消費され、犯罪者に膨大な利益をもたらしている。

 日本は国際社会から「児童ポルノの発信基地」と非難を受け、1999年に児童買春・児童ポルノ禁止法を制定した。この法律の「児童」とは十八歳未満を指す。2004年の改正で処罰対象は広がったが、依然として児童ポルノは巷にあふれている。

 警察庁の統計によると、同法違反による検挙件数は05年で1336件。06年は上半期(1〜6月)だけで1087件に達し、統計がある2000年以降、同期比で過去最高になった。児童ポルノだけで見ると、05年の検挙は470件。被害児童251人の中には未就学児5人も含まれている。

磯崎由美 / 毎日新聞社会部記者
いそざきゆみ 1964年東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。89年、毎日新聞社入社。大阪本社などを経て東京本社社会部勤務。精神医療、多重債務、朝鮮半島問題などを担当し、05年に子どもへの性犯罪を告発する「魂の殺人」シリーズを取材。共著に『総力取材「いじめ」事件』。

児童買春、児童ポルノ禁止法による検挙状況

 これらの数字は氷山の一角にすぎない。法律が作られたにもかかわらず、こうした画像の製造、頒布は容易になった。その理由はインターネットの普及だ。マニアたちの画像入手先は裏ビデオ店からインターネット上に移り、暴力団や大掛かりな組織には無縁な「普通の人々」が製造や販売に手を染めるようになってきた。そして、ネットの匿名性や技術は捜査をより困難なものにしている。

 21世紀を生きる人間の利便性を革命的に高めたパソコンと携帯電話。それらが子どもの「性」を深く傷つけ、その後の人生をも奪っている現実を、大人たちはどれだけ知っているのか。

「素人集団」による凶行

 冒頭に紹介した映像はインターネット上で「関西援交シリーズ」と名づけられた児童ポルノの一巻だ。

 05年3月、6府県警による合同捜査で、このシリーズは製造元から販売先まで摘発された。児童ポルノ事件は販売業者の摘発にとどまることが多く、製造元まで突き止めることはまれだ。そしてこの事件の全体像は、インターネット社会と児童ポルノの氾濫が深く結びついている実情を浮き彫りにした。

 端緒は04年7月、奈良県の高校のホームページに寄せられた一本の匿名メールだった。「おたくの女子生徒が出た児童ポルノがインターネットで販売されている」。教諭はすぐさま奈良県警に相談した。捜査員はネット上のビデオ販売サイトで、そのビデオを見つける。客を装い購入すると、確かにこの学校の卒業生が出ている。この少女は「在学中、同級生に紹介された中年男とセックスをしてビデオを撮られた」という。少女に中年男を紹介した同級生はこの男と出会い系サイトで知り合い、やはりビデオを撮られていた。

 シリーズは全157巻。大胆な手口や規模の大きさから、当初は「暴力団が関与する組織の犯行では」との見方もあった。しかし、逮捕された男たちは前科もない普通の会社員ばかり。彼らは「趣味」を通してインターネット上で知り合った関係だった。

 出演した女子生徒への「報酬」が振り込まれた金融機関の防犯ビデオなどから容疑者として浮かび上がったのは、JR西日本の43歳の契約社員、Yだった。毎朝、大阪市内のJR京橋駅に出勤し、通勤ラッシュの時間帯にアナウンスを担当。仕事ぶりはいたってまじめで、昼は同僚を誘って立ち食いそばを食べる。勤務が終わると、同僚たちの知らない別の活動を始める。インターネットカフェへ行き、自分のビデオ販売サイトに作品の紹介を書き込み、帰宅。夕方には自宅からBMWに妻子を乗せ、郵便局で客が注文したビデオやDVDを発送する。後はそのままファミリーレストランへ行き、家族と夕食をとっていた。

「普通の会社員」がなぜ、犯罪行為を副業とするようになったのか。法廷でその軌跡が明らかになる。

 Yは高校卒業後、コンビニ店員などを転々とし、裏ビデオ販売をしていた。ある時、「自分で作って売れば収入にもなる」と思いつく。そして、7年前、出会い系サイトで「モデルになりませんか」と少女たちの募集を始めた。そこには全国から少女たちが次々と応募してきた。各地に少女たちを訪ねたり、関西に呼び寄せてホテルに連れ込み、「撮影はするけれど、販売はしないから」「モザイクも入れるし、誰だか分からないよ」と言っては騙し、自分で少女たちとセックスしながら撮影を重ねていた。

 実際に販売された映像にはマニアの欲望を満たすためにモザイクはかけられていない。こうして少女たちの素顔はインターネットを通して全世界で閲覧可能になっていく。

 やがてYは「男優」として出演していることが妻に発覚し、一度は手を引く。ところが常連客から「もっと見たい」との要望が相次いだ。妻ともめなくてもいいようにと、今度はネットを通じて客たちの中から男優役を募集。手を挙げたのが54歳の大手清酒メーカー課長と、32歳の車両輸送会社社員だった。

 シリーズは1本5000円。被害少女の中には10歳の少女までいた。手錠などの道具を使い、撮影を重ねるにつれ、暴力的な行為がエスカレートしていく。Yは取り調べで、こう供述している。
「少女が若ければ若いほど、嫌がれば嫌がるほど、売れた」


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中央公論新社

情報提供:
中央公論2007年1月号

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