「素人集団」による凶行冒頭に紹介した映像はインターネット上で「関西援交シリーズ」と名づけられた児童ポルノの一巻だ。 05年3月、6府県警による合同捜査で、このシリーズは製造元から販売先まで摘発された。児童ポルノ事件は販売業者の摘発にとどまることが多く、製造元まで突き止めることはまれだ。そしてこの事件の全体像は、インターネット社会と児童ポルノの氾濫が深く結びついている実情を浮き彫りにした。 端緒は04年7月、奈良県の高校のホームページに寄せられた一本の匿名メールだった。「おたくの女子生徒が出た児童ポルノがインターネットで販売されている」。教諭はすぐさま奈良県警に相談した。捜査員はネット上のビデオ販売サイトで、そのビデオを見つける。客を装い購入すると、確かにこの学校の卒業生が出ている。この少女は「在学中、同級生に紹介された中年男とセックスをしてビデオを撮られた」という。少女に中年男を紹介した同級生はこの男と出会い系サイトで知り合い、やはりビデオを撮られていた。 シリーズは全157巻。大胆な手口や規模の大きさから、当初は「暴力団が関与する組織の犯行では」との見方もあった。しかし、逮捕された男たちは前科もない普通の会社員ばかり。彼らは「趣味」を通してインターネット上で知り合った関係だった。 出演した女子生徒への「報酬」が振り込まれた金融機関の防犯ビデオなどから容疑者として浮かび上がったのは、JR西日本の43歳の契約社員、Yだった。毎朝、大阪市内のJR京橋駅に出勤し、通勤ラッシュの時間帯にアナウンスを担当。仕事ぶりはいたってまじめで、昼は同僚を誘って立ち食いそばを食べる。勤務が終わると、同僚たちの知らない別の活動を始める。インターネットカフェへ行き、自分のビデオ販売サイトに作品の紹介を書き込み、帰宅。夕方には自宅からBMWに妻子を乗せ、郵便局で客が注文したビデオやDVDを発送する。後はそのままファミリーレストランへ行き、家族と夕食をとっていた。 「普通の会社員」がなぜ、犯罪行為を副業とするようになったのか。法廷でその軌跡が明らかになる。 Yは高校卒業後、コンビニ店員などを転々とし、裏ビデオ販売をしていた。ある時、「自分で作って売れば収入にもなる」と思いつく。そして、7年前、出会い系サイトで「モデルになりませんか」と少女たちの募集を始めた。そこには全国から少女たちが次々と応募してきた。各地に少女たちを訪ねたり、関西に呼び寄せてホテルに連れ込み、「撮影はするけれど、販売はしないから」「モザイクも入れるし、誰だか分からないよ」と言っては騙し、自分で少女たちとセックスしながら撮影を重ねていた。 実際に販売された映像にはマニアの欲望を満たすためにモザイクはかけられていない。こうして少女たちの素顔はインターネットを通して全世界で閲覧可能になっていく。 やがてYは「男優」として出演していることが妻に発覚し、一度は手を引く。ところが常連客から「もっと見たい」との要望が相次いだ。妻ともめなくてもいいようにと、今度はネットを通じて客たちの中から男優役を募集。手を挙げたのが54歳の大手清酒メーカー課長と、32歳の車両輸送会社社員だった。 シリーズは1本5000円。被害少女の中には10歳の少女までいた。手錠などの道具を使い、撮影を重ねるにつれ、暴力的な行為がエスカレートしていく。Yは取り調べで、こう供述している。
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