池原照雄の「最強業界探訪--自動車プラスα」

ヤマハが新興市場でホンダを追い上げる

 ヤマハ発動機が2008年から2010年(同年12月期)まで3カ年の新中期計画を始動させた。最終年には、主力の2輪車販売を2007年実績比56%増の778万台に拡大するという意欲的な数字を掲げている。

 東南アジアやインド、中南米といった「成長市場に重点投資」(梶川隆社長)して、世界シェアを昨年の11%相当から15%に引き上げる。世界トップのホンダと激しい市場争奪戦を演じる局面も出てくる。

 ヤマハは、2輪車の世界市場を2010年には昨年より12%多い5230万台と推計している。日本や北米など先進諸国市場での大きな拡大は期待できないものの、東南アジア(インドネシアなど主要5カ国)は30%、インドは25%、さらに中南米は40%近くと新興諸国での高い成長を想定している。

インドネシアでのポジションをさらに強化

 新中計ではその前の3カ年より2割強多い3000億円の設備投資を行う。このうち高成長市場での能力拡大や新機種投資の伸び率を5割強とし、メリハリをつけた。例えば市場拡大期に出遅れた感の強いインドには200億円、中国、インドに次いで世界3番目の市場に成長したインドネシアへは300億円と、2輪車ビジネスとしては規模の大きい投資を敢行する。

 インドは、東南アジアの強化を優先したため、90年代末からの急拡大期に乗り遅れた。このため新中計では「最重要課題の1つ」(内山徹雄常務)として、生産体制から販売網に至るまで再構築を図る。最終年には昨年の5倍に相当する65万台の販売を目指し、採算面も赤字から均衡へと持っていく。一方、ヤマハにとって最大の販売先となっているインドネシアでは、年180万台の能力を2010年までに一気に300万台まで拡張する計画だ。

 世界で2、3番目の市場であるインド、インドネシアともにホンダが、圧倒的な生産能力とシェアを持っている。 昨年800万台余りの市場となったインドでは、現地メーカーとの競合が続く中、ホンダはほぼ半数のシェアを確保、生産会社2社の能力は年500万台強まで拡充した。また、インドネシアは昨年500万台規模の市場だったが、6割程度のシェアを押さえている。ただ、現状のインドネシアの能力は年300万台。ヤマハが今後3年で拡張を目指す数字と同じだ。

 ヤマハのインドネシアでの販売は2004年から昨年までに倍以上に増えている。単に市場が拡大しただけでなく、独自商品でシェアも伸ばしたのだ。2002年4月、オートマチック仕様のバイク「ヌーボ」を投入し、これが躍進の原動力となった。ホンダがオートマ車で対抗したのは2006年になってからと、ヤマハに一本取られた形だ。

「HY戦争の時とは事情が違う」

 今回、ホンダ並みに能力を拡大する計画を見て、インドネシア版「HY戦争」というフレーズが頭をよぎった。1980年当時、両社は日本市場で激しく首位争いを演じた。女性の間に急速に普及していた原付バイクやスクーターを中心に争い、メディアはこれをHY戦争と称した。

 81年の初めにはヤマハが一時的に首位に立つのだが、この消耗戦は両社に大きなダメージのみを残した。ホンダの福井威夫社長にインドネシア事情について水を向けると「HもYもあの(80年)当時に経験したことは大きい。インドネシアは伸びている市場だから事情は違う」と、消耗戦勃発には否定的だった。

 海外営業の経験が長いヤマハの梶川社長も新興市場には「それぞれの企業が儲けられるチャンスがある」と、マイペースのスタンスを強調する。インドネシアではホンダも早晩、市場の拡大を見込んだ能力増に動き出すのが必至であり、300万台のまま立ち止まるわけではない。

 オートマ車のニーズをヤマハが発掘したように、双方にとってライバルの存在は事業を洗練させるうえで大いなるプラスとなる。ほぼ30年前の教訓も生かしながら、新興市場で「HY競争」が徐々に熱を帯びていくだろう。ただし、メディアの過激な見出しは立ちにくいかもしれない。

筆者プロフィール

池原 照雄(いけはら・てるお)
経済ジャーナリスト

池原 照雄

1950年生まれ。山口県出身。77年北九州市立大学卒。日刊自動車新聞、産経新聞の経済記者として自動車、エネルギー、金融などを担当。2000年からフリー。雑誌やインターネット上で、経済全般について幅広く執筆活動を行う。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社刊)がある

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