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原田 泰氏
大和総研 チーフエコノミスト
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第65回「日本の奇妙な生活保護制度」(2007/11/08)
日本の生活保護制度には、国際的に見て奇妙な特徴がある。制度を国際的に比較するのは難しいが、埋橋(うずはし)孝文・同志社大学教授の素晴らしい研究に基づいて比較をしてみたい(「公的扶助制度の国際比較」『海外社会保障研究』127号、Summer 1999年)。
給付総額は少なく、保護されている人はさらに少ない
日本の公的扶助支出額の国内総生産(GDP)に占める比率を見ると、わずか0.3%であり、経済協力開発機構(OECD)諸国の平均(2.4%)の約8分の1と極めて小さい(埋橋教授の研究は基本的にOECD加盟国のうち24カ国を対象としているが、ここでは平均を計算する際、通常先進国と思われている国に限定するために、トルコを除いた)。
当然のことながら、公的扶助を受けている人々(子供を含む)の総人口に占める比率も0.7%と低く、OECD諸国の平均(7.4%)の約10分の1にすぎない。
他の先進国との比較で考えた場合、日本の公的扶助支出額のGDPに占める比率は小さいが、公的扶助を受けている人口の総人口に占める比率と比べると、相対的には大きい。このことから、日本の公的扶助の支出総額は小さいが、公的扶助を受けている人、1人当たりへの支出額は、先進国の中では大きいのではないかと予想できる。
表は、1人当たりの公的給付額を2つの方法で示したものである。第1の方法は、各国の現役勤労者の平均所得との比で見るものである。これで見ると、日本は54%で世界7位となる。日本の上にあるのは北欧の福祉国家、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドなどである。
第2の方法は、購買力平価に換算した上で、OECD諸国の平均との差で比べるというものである。公的扶助額を購買力平価で換算すると、各国の物価水準の違いを調整した生活水準そのものになるわけだから、優れた評価方法である。また、為替レート換算のように毎年の振れが大きいということもない。購買力平価換算で比べると、アイスランド、カナダ、アメリカ(ニューヨーク)などが上位にきて、日本は11位となる。ただし、アメリカは地域の給付格差が大きいためニューヨーク、フロリダ、ペンシルベニア、テキサスが比べられており、その中でニューヨークの下にあるだけだから、国単位で考えれば、日本は10位ということになる。
また、日本より上位にある国は人口の少ない国が多い。人口1000万人以上の国で日本より上位にあるのは、カナダ、オーストラリア、オランダの3カ国だけである(第1の方法による比較ではオーストラリアのみ)。したがって、人口1000万以上の国の中では、日本の公的扶助給付額は、世界2位または4位ということになる。
公的扶助を受けている人、1人当たりの手当の水準 | (%) |
順位 | 国 | 対現役労働者の平均所得比 | | 順位 | 国 | 購買力平価換算(給付平均からの差の割合) | 1 | スウェーデン | 83 | 1 | スイス | 91 | 2 | スイス | 81 | 2 | アイスランド | 49 | 3 | ノルウェー | 71 | 3 | ノルウェー | 38 | 4 | ルクセンブルク | 61 | 4 | ルクセンブルク | 32 | 5 | フィンランド | 58 | 5 | カナダ | 26 | 6 | オーストラリア | 56 | 6 | デンマーク | 26 | 7 | 日本 | 54 | 7 | スウェーデン | 17 | 8 | オランダ | 52 | 8 | オランダ | 16 | 9 | デンマーク | 51 | 9 | オーストラリア | 15 | 10 | イタリア | 49 | 10 | 米国 (ニューヨーク) | 8 | 11 | オーストリア | 47 | 11 | 日本 | 1 | 12 | カナダ | 47 | 12 | ベルギー | 1 | 13 | ベルギー | 46 | 13 | イタリア | 0 | 14 | ニュージーランド | 45 | 14 | ニュージーランド | -4 | 15 | 米国 (ニューヨーク) | 45 | 15 | フィンランド | -5 | 16 | 英国 | 43 | 16 | アイルランド | -15 | 17 | ポルトガル | 42 | 17 | 英国 | -19 | 18 | フランス | 41 | 18 | 米国 (ペンシルベニア) | -24 | 19 | アイルランド | 41 | 19 | 米国 (フロリダ) | -27 | 20 | ドイツ | 36 | 20 | フランス | -28 | 21 | 米国 (フロリダ) | 32 | 21 | オーストリア | -29 | 22 | スペイン | 31 | 22 | ドイツ | -32 | 23 | 米国 (ペンシルベニア) | 29 | 23 | 米国 (テキサス) | -40 | 24 | 米国 (テキサス) | 25 | 24 | スペイン | -45 | 25 | ギリシャ | 6 | 25 | ポルトガル | -63 | ― | アイスランド | ― | 26 | ギリシャ | -91 |
(出所) | Social Assistance in OECD Countries, 1996, Volume 1, pp.130, 131, 139 埋橋孝文「公的扶助制度の国際比較」表4『海外社会保障研究』127号、Summer 1999年より引用 |
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