九州新幹線長崎(西九州)ルート着工が確実となり、金子原二郎知事が描く街づくりの青写真が明らかになってきた。JR長崎駅を核に行政、商業、観光機能を集積し、景観も含め県都の玄関口を一新させる壮大な構想。新幹線に付随して次々と巨大事業が浮上し、気になるのは最終的にどれだけの金がかかるのかはっきりしない財政不安と他の政策へのしわ寄せ。政策判断の妥当性が議論になりそうだ。【宮下正己】
昨年末、年納めの記者会見。長崎ルート着工に道筋をつけた知事は「これからは暗い話題より明るい話題が多くなる」と発言した。年頭の仕事始め式では、新幹線が乗り入れる長崎駅周辺の開発を「新しい長崎の百年の大計」と並々ならぬ意欲を示していた。
「明るい話題」は先月29日、県議会一般質問での知事の答弁に凝縮される。JR長崎線の連続立体交差事業と長崎市の駅周辺土地区画整理事業を一体的に進め、長崎駅を高架にして新幹線、路面電車、バスターミナルを集めた交通拠点とする。
ここまでは既存の計画だが、知事はさらに県庁舎を駅前の長崎魚市跡地に移転し、新しい駅と連携した整備を提案。「海に続く終着駅の特長を生かす」と言い、駅を降りれば長崎港、女神大橋が一望できる景観を作り出す考え。眺望の妨げとなる駅近くの高架橋(旭大橋)は取り壊し、平面化させる案も披露した。駅前には大型商業施設の進出が確実視され、市役所の同時移転案も浮上している。
知事がじょう舌なのは、長崎ルート着工が確実になったことにある。就任以来、厳しい県経済を改革・浮揚させるため観光立県への道を標ぼう。JRの努力で観光客増加が見込める新幹線は大きな魅力といえる。「長崎駅と周辺の整備に大きな弾みがつく」とはばからず、これまでは青写真を「封印」していたようだ。
しかし、長崎ルート武雄温泉-諫早間2600億円▽諫早-長崎間延伸1100億円▽▽長崎駅周辺立体交差400億円▽土地区画整理170億円。うち県負担分は少なくとも581億円で、このほかに県庁舎移転が試算で451億円、大村、諫早両駅新設に伴う開発300億円、旭大橋の架け替えは100億円以上と想定されるが、これらは判明分の概算。トータルでどれだけの費用に膨れ上がるのか現段階では不透明だ。新幹線をてこに県都の顔を整え、県経済の底上げにつなげようという狙いは一つの政策判断。今後は沿線市町なども含め、波及効果を広げる方策が課題となる。
◇雇用、過疎化問題が山積
ただ一方で、厳しい雇用、過疎化の進行、相次ぐ学校の閉校、燃油高騰に苦しむ漁業者、島原鉄道南線の廃止など生活を直撃する問題が山積。知事の青写真は街の見栄えを良くするが、県民の暮らしがどう向上するのかはっきりせず、バブル期をほうふつとさせる構想に不安もある。知事は「100%の理解を得るのは無理」などと言っているが、費用対効果を含め県民に判断材料を提供する努力が求められる。
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◇新幹線建設に伴い浮上している主な事業◇
総事業費 県負担
長崎ルート武雄温泉-諫早間の建設 2600億円 300億円
長崎ルートの長崎駅までの延伸 1100億円 200億円
大村、諫早両駅の新設に伴う開発 300億円 不明
並行在来線の施設購入費 14億円 佐賀県と負担
並行在来線の維持管理費 年2.3億円 〃
連続立体交差事業 400億円 81億円
土地区画整理事業 170億円 -
県庁舎と県警本部の移転(試算) 451億円 不明
旭大橋の架け替え 100億円以上 不明
〔長崎版〕
毎日新聞 2008年3月10日