現在位置:asahi.com>社説 社説2008年03月11日(火曜日)付 捕鯨問題―この機に対話を深めたいクジラの捕獲をめぐって、世界が真っ二つに割れる危機は避けられた。 日本などの捕鯨国と反捕鯨国が鋭く対立する国際捕鯨委員会(IWC)のロンドン会合が、話し合い路線を強める方向でまとまったのである。 運営の改善点として「採決を減らす」など9項目の提言をまとめた。この通りになれば、票集めに奔走する場が合意を探る場に生まれ変わるだろう。 南極海では、日本の調査捕鯨に対する反捕鯨団体シー・シェパードの妨害行動で、けが人が出たばかりだ。これを非難する声明も全会一致で採択した。 動物保護を唱える人たちが、人間に危害を加える愚を見せつけたのである。国際社会が対話と理性を重んじる決意を示したことを歓迎したい。 IWCは戦後まもなく「捕鯨産業の秩序ある発展」をめざすという国際捕鯨取締条約のもとでつくられた。だが最近は「発展」をうながす色彩が弱まり、対立ばかりが目立つようになった。 こうしたなかで、仕切り直しとして開かれたのが今回の会合だ。 捕鯨国はクジラを「資源」とみている。だが、欧米を中心に、クジラは「守るべき野生動物」という考え方が強まっており、これが反捕鯨の原動力になっている。資源管理と動物保護という異なる座標軸が混在しているのが、今のIWCである。 日本が捕鯨を続けようというのなら、まず、このもつれを解く必要がある。 そのためには、クジラを資源とは見なさない反捕鯨論と正面から向き合わなければならない。簡単ではないが、クジラを捕って食べる習慣に粘り強く理解を求めていくことが大切だ。 欧米も一枚岩ではない。 ノルウェーは商業捕鯨を続けている。ロシアやデンマーク領のグリーンランドでは、先住民がクジラを捕っている。 反捕鯨陣営の米国にさえ、捕鯨をする先住民がいる。 反捕鯨国のアイルランドは95年、ダブリンで開かれたIWC総会で、閣僚が「クジラに頼って生きる人々がいる国々に、われわれの価値観を押し付けるのは文化の帝国主義」と語った。2年後には沿岸捕鯨に限って認める提案もした。 いま大切なのは、こうした声を背景に、捕鯨そのものは人道に反さない、という考え方を広めていくことではないか。自らはクジラを食べずとも、食べる人がいることは受け入れられないか、という働きかけである。 そうすれば、少なくとも沿岸の商業捕鯨には道が開けるのではないか。 そのうえで資源管理の主張をすればよい。そこでは南極海のミンククジラの生息数などについて、捕鯨国に有利なデータもある。 6月にはチリでIWC総会が開かれる。クジラも舌を巻くような理性的な会議にしたいものだ。 独禁法改正―摘発能力アップに重心を企業の合併や買収が進んで巨大企業が相次いで誕生すると、厳格で公正な競争ルールがますます重要になる。再編は競争相手を減らし、不当な値上げやカルテルが起きやすくなるからだ。 政府は独占禁止法の罰則を強化する改正案を今国会に提出する。その背景にはこうした時代の要請がある。 談合やカルテルの罰則では、主犯格企業に対する課徴金を通常の5割増しにし、3年の時効を5年へ延ばす。2年前にも、違反した大企業への課徴金を対象売上高の6%から10%へ引き上げたが、それに続く罰則強化だ。 課徴金には、「カルテルは割に合わない」と企業に自覚させ、犯罪を抑止する効果が期待される。その面では「課徴金はまだ低い」ともいえるが、一歩前進ではあろう。罰則効果を見極めつつ、足りなければさらに強化すればいい。 課徴金の対象となる違反行為も広げる。価格や品質について消費者を惑わす「不当表示」、納入業者などに不利な取引を迫る「優越的地位の乱用」、競合相手を市場から追い出すため原価割れの安売りをする「不当廉売」などだ。 不当廉売へ課徴金を導入することは、値下げ競争に苦しむ石油販売業界などの要望を受け、自民党が主張した。繰り返し違反する業者に対象を限るとはいえ、運用を誤ると健全な価格競争まで制限しかねない面がある。公正取引委員会にはくれぐれも慎重な運用を求めたい。 今回は手をつけないが、公取委の「審判制度」を08年度中に見直すことが、法案付則に盛り込まれた。談合とカルテルについての審判廃止を来年の通常国会に提案することを検討している。 課徴金を命じられた企業が、それを不服だと訴えた時に開く公取委の「法廷」が審判だ。裁判の一審にあたる。 裁判官にあたる「審判官」は、公取委の職員や公取委に雇われた弁護士などで構成されている。これを経済界は「検察官が裁判官を兼ねる『江戸の町奉行』のようなもの」と批判してきた。 独禁当局が不服審査の「裁判官」を兼ねている例は、欧米主要国にはない。公取委は当初抵抗したが、自民党や経済界の批判を受け、談合とカルテルについての審判廃止を受け入れた。「大岡裁き」に頼っていては、公取委の公正さが疑われる。事実認定などで争いがあれば、司法の場で争うのが妥当だろう。 公取委は、不当表示など新たに課徴金の対象となる違反は審判で扱いたいと主張しているが、これも司法にゆだねた方がすっきりするのではないか。 かつて「ほえない番犬」と揶揄(やゆ)された公取委だが、独禁法強化もあって、強い公取委へと変身し始めている。健全な市場をつくるために、その歩みを確かなものにしたい。 ここは組織防衛のため審判機能にこだわるよりも、違反の摘発能力をさらに高める努力こそ必要ではないか。 PR情報 |
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