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【コラム】

中日春秋

2008年3月11日

 小説や映画、漫画などにはよく「この物語はフィクションです。実在の人物や団体とは一切関係ありません」という趣旨の断りがある。モデルがいるとき、現実の話と混同されないための配慮でもあろう。テレビドラマになっている人気漫画『Dr.コトー診療所』(山田貴敏著)の主人公、五島健助にもモデルがいる

▼鹿児島県の薩摩半島の西方約三十キロに位置する下甑(しもこしき)島の医師、瀬戸上健二郎さんである。国立病院の外科医長を辞め、県内で開業準備を進めていた時に依頼があった。当時三十七歳。半年間の約束で赴任したが、六十七歳になった今も島の診療所にいる

▼先週末、瀬戸上さんへの感謝祭が開かれた。今春で退職する予定だったが、医師不足の中で後継者が見つからず、島民らの続投希望に応えることにしたという

▼半年の予定がなぜ三十年になったのか。病院の建設用地を確保し、設計図もできあがっていた。最先端の医療から距離を置くことへの焦りと不安もあったので、島をいつ離れてもおかしくなかった

▼自著の『Dr.瀬戸上の離島診療所日記』では、疑問にこう答えている。島での生活は苦労の方が多いが、年に何回か<学んだ医学が人様の役に立ったことを実感できる喜び>が増幅される、と。医師は自分一人。どんな病気にも立ち向かわなければならないからだろう

▼コトーのせりふを借りれば<目の前で死んでいく人を、黙って見てるくらいなら、今すぐ医者をやめるよ!!>という心構えが必要になる。現実に言える医師が、数え切れないほどいると信じたい。

 

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