北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議で、昨年末までの実施が合意されていた「すべての核計画申告」が年を越えてなお停滞したままだ。米首席代表のヒル国務次官補は、今月中の解決を目指す考えだが、先行きは定かに見えない。
昨年十月の六カ国協議では核施設の稼働停止・封印といった「初期段階措置」に続く「第二段階の措置」として、北朝鮮が同年末までに寧辺にある核施設三カ所の無能力化と、すべての核計画の完全かつ正確な申告を行うことで合意し、文書を採択した。
無能力化については、昨年中に二施設で完了した。しかし、実験用黒鉛減速炉については見返りのエネルギー支援の遅れを理由に作業の速度を低下させている。核計画の申告に至っては、ほとんど進展がない。北朝鮮側は「昨年十一月に申告を作成して米国に通報した」とするが、米側は「すべての核計画や核施設の情報がなかった」と申告とは認めていない。
停滞した状況の打開へ向け米朝の交渉が続く。二月には米ニューヨーク・フィルハーモニックによる初の北朝鮮公演が実現した。音楽を通した関係改善の期待はあったが、会場に金正日総書記の姿はなく、核問題での新たな進展はなかった。
米朝間の協議が難航し、六カ国協議の再開までに至らない大きな背景には、米国によるテロ支援国家指定解除を急がせたい北朝鮮の思惑を強く感じる。有利に運ぶため常とう手段である駆け引きに出たといえよう。
核施設や核物質の状況などを網羅した核計画の申告は、施設解体など今後の北朝鮮の核放棄へ向けた具体化を協議していく上で欠かせない基本となる。それだけに、何よりも正確さが大切だ。米側が報告を求め、北朝鮮側が難色を示している高濃縮ウランによる核開発計画や、シリアへの核開発協力の有無などを含むのは当然といえよう。
気になるのが、任期が一年足らずとなったブッシュ米政権の焦りだ。ヒル氏は「時間は刻々と過ぎており、三月は前進が必要な月になる」と発言した。米国と六カ国協議の議長国で米朝間の仲介役を担っている中国の間では、争点を付属文書にして早期の申告を実現させる案なども協議されているようだ。
安易な妥協で報告の内容をあいまいにしては禍根を残そう。しっかり原則を貫くことが肝要だ。六カ国協議関係国は支えなければならない。北朝鮮も完全な申告がテロ支援国家指定解除などに避けて通れないと認識し、早期履行するよう求めたい。
行き交う船舶の多さで知られる明石海峡で起きたタンカーなど三隻による衝突事故は、貨物船が沈没し死者・行方不明者四人を出す惨事となった。
海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船の衝突事故の衝撃がまざまざと残る中で、悲劇がまたもや繰り返されてしまった。海の安全が大きく揺らいでいる。
事故現場は明石海峡大橋の東約二・五キロ。航路の幅が狭く潮の流れが速い上に、一日当たり約八百隻の船が往来する混雑海域だ。いずれも西に向けて航行していたタンカーと砂利運搬船、そして貨物船が次々に衝突した。
昼間で晴れて視界も良かったのに事故が起きたのはなぜか。第五管区海上保安本部の調べや関係者の話から問題がいくつか浮上してきた。
タンカーや砂利運搬船は自動操舵(そうだ)で航行し、衝突の直前に手動にして回避を試みたが間に合わなかったという。周囲に注意を払い慎重に操船すべき海域なのに自動操舵に任せていたとは、イージス艦衝突事故の状況と同じだ。教訓は生かされなかった。海上保安庁は混雑海域では手動にするよう指導しているが、違反しても罰則はない。それが緊張感を欠いた要因なのか。
さらに、レーダーで衝突の危険性を感じた五管の大阪湾海上交通センターがタンカーに緊急音声による警告を発したが、乗組員は気付かなかったという。無線の受信は義務付けられており、どういう状況だったか明らかにする必要があろう。
いくら最新のシステムがあっても、ルールを無視したり緊張感を欠いたのでは事故はなくならない。海の安全へ、関係者の自覚はもちろん罰則強化などルールを厳守する環境づくりが急がれる。
(2008年3月10日掲載)