学資保険訴訟/生活保護見直しにつなげ 2004/03/19 「生活保護費を切り詰めて子どもの高校修学のために積み立てるのは、いけないのか」。そんな訴えに対し、「問題ない」とする最高裁の判決が下った。 保護費の一部を使った学資保険の是非をめぐる裁判の上告審で、最高裁は、満期払戻金を「収入」とみて保護費を減額した処分を妥当でない、とした。 いまや、高校への進学率は95%を超えている。そんな現実を考えると、時代の変化に即した妥当な判断である。 訴訟は、福岡市内の一家が市福祉事務所長らを相手に一九九一年に起こした。両親とも十分に働けない身で、二人の娘を抱えて生活保護を受けていた。子どもの高校進学に備え、保護費を節約しながら毎月三千円を学資保険の積み立てに充て、九〇年に満期払戻金約四十五万円を受け取ったが、これが「収入」とみなされたのだ。 福祉事務所の言い分は「生活保護法が最低限の教育として認めているのは義務教育で、高校進学はあたらない」という国の通達を受けてのものだった。 学資保険が生活保護法で認められていない「貯蓄」に当たるのか、それとも、受給者の努力による「やり繰り」なのか。最高裁は「最低限度の生活を維持しつつ、子どもの高校修学のために努力することは法の趣旨目的に反しない」と結論づけた。 提訴から十二年余、死亡した両親を引き継いで訴訟に臨んだ娘は、すでに母親になっている。原告にとって、長い道のりだったろう。判決を通じ、現実にそぐわなくなった福祉の実態を見る思いがする。 生活保護は、憲法二五条にうたわれた「健康的で文化的な最低限度の生活」を、国が国民に保障する最後の手段である。 そのあり方については、生存権をめぐる憲法論議になった六七年の「朝日訴訟」など、住民と行政の間で争われてきた。その流れは、福祉手当などの併給を認めた七二年の「堀木訴訟」一審判決、今回と同様に保護費の減額を違法とした九三年の秋田地裁判決などにつながっている。 生活保護法は一九五〇年の施行以来、改正されていない。学資保険とはいえ、税金を使った貯蓄は認めないという原則には一定の理解ができるが、裁判で浮き彫りにされた時代とのずれは放置できない。 判決は「高校進学は自立に有用」と述べている。生活保護を受けていても、子どもが高校に進学できる環境づくりなど、検討すべき課題は多いのではないか。 生活保護は、国の責任である。今回の判決を制度見直しへの一石にしてほしい。 [ 閉じる ]
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