ネットにはすでにたくさんの「やる夫」シリーズが蓄積されている

 「やる夫で学ぶ音楽史」のオリジナルは3月2日14時46分から始まり、同日の21時34分に終わった。この掲示板を開始した人物(芸術哲学専攻の匿名学生)が、掲示板参加者の質疑に答えて6時間以上にわたって書き込んだもので、内容はほとんど授業というか講義のようだ。しかも、音楽史をただ言葉で説明するだけではなく、実際の楽曲を聴いてもらうために、年代ごとに適切な作品のリンクを「YouTube」に用意している。この講義に臨んで入念な準備をしていたわけだ。

 そこまでして「やる夫」を展開するメリットってなんだろうと思うが、ブログなどでも無料で各種の意見を紹介している人がいるので、「2ちゃんねる」にも同じように多くの人に意見や知識を伝えたいと思う人がいる、ということだろう。こうした人々がネットに現れてくるのは、ボランティアで書き込まれる「ウィキペディア」と同じようにWeb 2.0的な集合知の活動とも言える。

 講義のような展開は「やる夫で学ぶ音楽史」が初めてではない。かなり高度な経済の問題を分かりやすく説明した「やる夫で学ぶサブプライム問題」も人気を集めた。これを読んで初めてサブプライム問題が分かったという人も多い。このオリジナルもすでに無料で読むことはできないが、やはり「Google」で「やる夫で学ぶサブプライム問題」を検索すれば、2ちゃんねるまとめサイトに該当エントリーがある。

 ほかにも、「Google」で「やる夫で学ぶ」を検索すると、「著作権問題」「史記」「東西冷戦」「太平洋戦争」などが見つかるし、さらに「翠星石のギャルゲーブログ」には「やる夫まとめ」としてこれまでの「やる夫」の一覧がまとめられている。これを見ると、当初は「やる夫で学ぶ」というより、「やる夫が***をするそうです」という形式が多い。そこで、「Google」で「やる夫がするそうです」を検索すると、古本市場でアルバイトをした話や、高校を受験した話、ゲームセンターでアルバイトをした話なども見つかる。どれも面白い。「やる夫」ブランドが読ませる訴求力になっている。

 これだけ面白いネタがあるなら「2ちゃんねる」の掲示板でなくてもいいようにも思える。いっそ「ウィキペディア」のような感じで「やる夫ペディア」のようなものができたら、インターネットの教育的な効果も大きくなるだろう。

「やる夫で学ぶ」や「やる夫がするそうです」を検索すると、各種のやる夫の話が見つかる。どれを読んでもけっこう面白いし、ためになる(画像クリックで拡大)

著者

佐藤 信正(さとう のぶまさ)

テクニカルライター。1957年東京生まれ。国際基督教大学卒業後、同大学院で言語学を学ぶ。小学生のときにアマチュア無線技士を免許をとり、無線機からワンボード・マイコンへ興味を移す。また初代アスキーネットからのネットワーカー。通信機器や半導体設計分野のテクニカルライターからパソコン分野へ。休刊中の「日経クリック」で10年間Q&Aも担当していた。著書「Ajax実用テクニック」「JScriptハンドブック」「ブラウザのしくみ」など。