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社説:社会保障予算 抑制のノルマを見直そう

 4月から75歳以上のお年寄りを対象とした独立保険「後期高齢者医療制度」がスタートする。新制度の保険料は都道府県ごとに決められる。当初全国平均で年7万2000円と見込まれた保険料は2年間の軽減措置が講じられる。

 生活費にも事欠くお年寄りの負担が少なくなることにだれも異存はあるまい。だが、衆院選を意識した場当たり的なほどこしなら、お年寄りの真の安心につながらない。

 新制度が発足するのを機に超高齢社会での年金、医療、介護など社会保障費のあり方を考えてみたい。

 08年度予算案で社会保障関係費は22兆円、国債費などを除いた一般歳出の半分近くを占める。高齢化と歩調を合わせるように社会保障費も年約8000億円ずつ自然増となる。

 小泉政権は、財政再建の当面の目標として2011年に基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目指した。そのため社会保障費の自然増を5年間で1・1兆円圧縮することにした。単年度当たり2200億円。財務省は厚生労働省に対し、毎年予算編成時に自然増の伸びを2200億円抑制するようノルマを課してきた。

 08年度は、中小企業の従業員が加入する政府管掌健康保険の国庫負担を、大企業などの健保組合などに肩代わりさせる窮余の策でしのいだ。つじつま合わせは明らかで、その場しのぎの取りつくろいである。

 無理な財源調整を重ねると、社会保障制度自体にひずみが生じかねない。そのツケは結局、福祉サービスを求めている弱者に及ぶことになる。

 福田康夫首相は国会で「(社会保障費の)抑制にはおのずと限界がある」と答弁している。政府・与党内にも機械的な抑制ノルマはすでに限界との認識が広まりつつある。

 ならば、福田政権は小泉政権から引き継がれている毎年2200億円圧縮の政策を見直す潮時に来ているのではないか。福田カラーとして「市民・消費者重視」を掲げたのだから、その標語を肉付けする格好の政策転換である。首相が音頭を取って設立した「社会保障国民会議」で当否の議論を深めてほしい。

 社会保障費が野放図に増えることを厳しく監視するのは言うまでもない。しかし少子高齢社会で必要とされるお金はきちんと手当てしなければならない。それが福田流「温かい政治」ではないのか。生活困窮者には保険料や窓口負担の引き上げは限界に来ている。

 社会保障財源は、将来的には消費税アップも検討する時期が来よう。だが当面2200億円の財源不足が生じるならば、道路特定財源の一般財源化などによってやり繰りすることは可能なはずだ。09年度予算の目玉政策として一歩前に踏み出すことを期待する。

毎日新聞 2008年3月10日 東京朝刊

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