倉敷市・水島コンビナートのある事業所は「ABC賞」というユニークな制度を設けている。ネーミングは「当たり前のことを、ばか正直に、ちゃんとやる」の頭文字に由来する。
職場の環境改善など月ごとに決められたテーマに則して従業員を表彰するのだが、いわゆる業績賞とは異なり、目立たないけど地道に頑張っている人に光を当てるのが趣旨という。毎日元気にあいさつしたり、就業前の掃除を続けることで受賞した若手従業員もいる。
「業績に直結する仕事は大切だけど、それだけでは置き去りにされてしまうものが必ずある。仮にそれが『安全』にかかわることであれば、工場に取って命取りとなる。初心を忘れず、基本を怠らない精神を評価するのがABC賞」と総務担当者。工場長の発案で始めて二年半ほどになるが「その間大きな災害は起きていない」と胸を張る。
産地偽装、消費期限改ざんなど、「安全」を揺るがす昨今の不祥事を耳にする度に、組織のどこかでABCが軽視されていたのではないだろうか、と思う。七日付社会面に食肉偽装事件を起こしたミートホープ(北海道)の元従業員が、四月から安全な食材を使った「正直コロッケ」で再出発するという記事が載っていた。ぜひとも名前の上に「ばか」が付くくらいの商品をつくってほしいものだ。
新聞製作もまたしかり。どんなにいい記事を書いても、わずかなミスがそれを帳消しにし、紙面の信用を損なわせる。事実関係を確認する、何度も原稿を読む。簡単なようで実は難しいABCを、胆に銘じておきたい。
(社会部・前川真一郎)