政府が、十九日に任期満了となる福井俊彦日銀総裁の後任に元財務事務次官の武藤敏郎副総裁を昇格させる人事案を国会に提示した。二人の副総裁候補も示した。
焦点は、参院で過半数を占める民主党など野党の判断である。適任でないとして反対すれば、任期切れの十九日が迫っているだけに総裁空席の異常事態が現実となりかねない。金融政策のリーダー不在は、日本に対する国際的な信用を低下させることは間違いあるまい。
市場は同意されるかどうか、国会の動きを注視しよう。まず十一日に、武藤氏ら正副総裁候補三人は、衆参の議院運営委員会で公開方式による所信聴取と、非公開の各党による質疑に臨む。政府、与党は十四日にも衆参両院本会議で採決し、過半数の同意を取り付けたいとしている。
民主党は武藤総裁案には同意しない方針とされる。共産、社民、国民新の三党も反対している。このままでは野党が過半数を占める参院での同意は難しそうだ。
武藤氏は、当時の大蔵省に入り、官房長や主計局長を経て二〇〇〇年六月から二年七カ月事務次官を務めた。〇三年三月からは日銀副総裁だった。政財界の人脈と組織運営の力量には定評がある。
総裁昇格に対して民主党が異論を唱える最大の理由は、財政と金融分離の観点から問題があるとみているからとされる。武藤氏が務めた事務次官は、政府の財政運営を事実上取り仕切っていた。その武藤氏が総裁になれば、政府の財政運営にどうしても気をつかい、日銀の独立性を貫くことができないのではないかという懸念だ。政府側の顔色をうかがったり、圧力に屈したりしては金融政策をゆがめかねない。武藤氏の総裁としての資質をきちんと見極める必要があろう。
福田康夫首相は、武藤氏の昇格案について「課題に立ち向かえる人を選ぶのが私の責任だ。非常にいい人選をした」と自信を示すが、与野党は所信聴取と質疑でしっかりと判断しなければならない。民主党などが不同意を貫く場合は、納得のいく理由の説明が求められることは当然だ。
任期切れ間近の福井総裁は、最後の金融政策決定会合後の記者会見で「米国を中心に世界経済の下振れ懸念が高まり、市場の不安定さも増している」と世界経済の現状に厳しい認識を表明した。後継総裁の役割は重要だ。迅速で効果的な政策が取れないようでは景気に悪影響を及ぼそう。総裁空席は避けなければならない。民主党が第一党を占める参院の責任は重い。
南極海を航行中の調査捕鯨船団の母船「日新丸」に、米国の環境保護団体シー・シェパードの抗議船から薬品入りの瓶などが投げ込まれた。日本側に負傷者が出た。危険極まりない行為と言わねばならない。
薬品は異臭を放つ化学物質の酪酸(らくさん)とみられるという。同乗する海上保安庁の職員が抗議船に対して威嚇のため爆発音を発する警告弾を七発投げて対抗した。物理的手段に出たのは初めてだが、これまでシー・シェパードなどが行ってきた妨害活動を考えればやむを得まい。
一月中旬には、活動家二人が、捕鯨船の第2勇新丸に不法に乗り込み拘束される事件を起こした。二人はスクリューにロープを巻き付けようとしたり、デッキに薬品をまくなどの危険行為を行ったとされる。別の捕鯨船にも異臭を放つ瓶約十本が投げ付けられた。ゴムボートを割り込ませて給油船の作業を邪魔する行為も行っている。
今月に入ると、日新丸に薬品の入った瓶や白い粉の入った袋約百個を投げ込んだ。海上保安官二人と乗組員一人が、飛び散った薬品で目に軽傷を負っている。政府は船籍のあるオランダ政府に抗議するとともに、米国など関係国に傷害と威力業務妨害容疑で捜査共助の申し入れを検討している。政府は毅然(きぜん)とした対応を取るべきである。
日本の調査捕鯨は、国際的に認められている。国際捕鯨委員会では、捕鯨推進派と反対派の対立が続いているが、捕鯨の是非は、資源量についての科学的な事実に基づき冷静に議論すべきであって、暴力で自らの主張を通そうとするやり方は間違いである。日本政府は、調査捕鯨の必要性についても、国際社会にアピールする努力が必要だ。
(2008年3月9日掲載)