イラスト:岡林みかん |
第68回 物書きの矜持(きょうじ) | |
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歳をとるにしたがって、カラダのほうぼうにガタがきます。胃が弱ったり、肩が動かなかっ たり、尻から何か出てきたりと、もうさんざんです。中年まっしぐら! で、医者にかかるわけですが、診察時にたいてい聞かれるのが、お仕事はなんですかという 質問。べつに隠す必要もないので「物書きやってます」と答えるのですが、そうすると「え、 どんなの書くの?」みたいに、食いつくこと、食いつくこと。 とりわけ年輩のお医者さんの食いつきがいいですね。それまで、ちょい上から目線で事務的 だったのに、物書きとわかったとたん、急に態度がフレンドリーになります。ストレス多いで しょう、一日中座りっぱなしはよくないよ、とねぎらいの言葉をかけてもらえます。 物書きやってるといいましても、私なんか、なんとか食えているって程度だし、あなたがた 開業医のほうが、がっぽり稼いでらっしゃってうらやましいかぎりですよ、といつも思ってま すが、本を出すということに対するあこがれや羨望(せんぼう)はいまだ健在のようですね。 いまどき、自分の意見を発表したい、作品を世に問いたいという願望は、ブログという手段で いとも簡単に実現できるのに、やっぱり、本のほうが格が上。 既存の紙媒体メディアや書籍に批判的なブロガーだって、あなたのブログを本にしませんか と誘われたら、二つ返事で承諾するんですよね、きっと。「ぼくは生涯、一ブロガーを貫きま す、本にはしません」そう断言できる硬派な人はいますかね。本の魅力(魔力?)にはあらが えません。 ただ、本というステータスを信奉する人たちにも問題がなくはないんです。出版社に企画を 持ち込む努力すらせずに、自分に本の執筆依頼が来ないと憤(いきどお)る大学教授。本は出 したものの、営業宣伝活動をなにもせず、自分の本が売れない、と嘆(なげ)く人。 インディーズでCDを出してる人は、ライブやストリートで必死に宣伝活動をします。それ は、世間におのれの作品を認めさせるための闘いです。本を出す人は、なぜなにもしないのか。 本を書いてる私はエラい、エラい私の本は人に頭を下げなくても出るはず、売れるはず、とお 考えなのか。 私は本を出すと、時間が許せば書店にあいさつ回りをします。通りがかりの店で、平積みに して手書きポップをつけてくれてるのを見つけたら、あとでファックスでお礼状を送ることも あります。それがどれだけ売り上げに貢献してるかは確かめようがありません。でも、なにも せずに売れないと嘆くダメな中年には、なりたくありませんから。 |