宇宙飛行士の土井隆雄さん(53)が11日、米スペースシャトル「エンデバー」で2度目の宇宙に飛び立つ。国際宇宙ステーション(ISS)に日本実験棟の「きぼう」を設置する第1便という重要な任務だ。土井さんと東京大工学部や同大学院で机を並べた仲間には、H2Aロケット製造の責任者である浅田正一郎・三菱重工業宇宙機器部長(52)▽再使用型ロケットの開発を進める稲谷芳文・宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授(54)▽日本宇宙議員連盟事務局長の小野晋也衆院議員(52)▽小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネジャーの川口淳一郎・JAXA教授(52)らがいる。土井さんとともに日本の宇宙開発で中心的な役割を担う。同級生たちに、土井さんへの期待や日本の宇宙開発の行方について聞いた。【永山悦子、西川拓】
◇「いずれ宇宙へ」仲間の分も--浅田正一郎・三菱重工宇宙機器部長
大学院時代、川口以外の同級生は皆、研究の合間にグラウンドを走っていた。宇宙飛行士になる体力をつけるためだった。その中で、実際に宇宙飛行士の試験を受けたのは、土井と私の2人だった。
米国のアポロ11号の月面着陸が中学生のころ。ちょうど私たちは「いずれ自分も宇宙へ行きたい」と考えた世代だった。大学院で、私と土井、小野、稲谷の4人で、月面開発に関するリポートを書いたことがある。月への思い、ロマンを形にしたリポートだった。
今の日本は、「何のための宇宙開発か」が明確ではないように感じる。将来、人間が地球を出る必要が生じるかもしれない。そのときのため、力のある国は率先して研究開発を進めておくべきで、日本も積極的に貢献していく姿勢を示すことが必要ではないか。
同じ宇宙開発に携わる一人として、土井には、皆が宇宙開発のことを考え、応援してくれるきっかけを作ってほしい。私も一緒に盛り上げていきたい。
◇再使用型ロケットで、気軽に--稲谷芳文・JAXA教授
土井君とは大学院の5年間、当時駒場(東京都目黒区)にあった宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究本部)で一緒に過ごした。彼はロケットのエンジン関係、私は流体力学関係の研究室だったが、住んでいた場所が近かったので、お互いの部屋を行き来して、よく話をした。
ガリ勉タイプではなく、よくテニスやサッカーを一緒にやった。スペースシャトルは、私たちが大学院生の時に初飛行した。そのときから「宇宙に行きたいんだ」と言っていた。お互いに50歳を過ぎたが、さすがに訓練で鍛えているだけあって、土井君は元気だ。
今は宇宙に行けるのは限られた人だが、将来はもっと多くの人が気軽に宇宙に行けるようになると思う。そのためには経済性や安全性を飛躍的に高めないとだめで、今のロケットとはまったく違う乗り物が必要になる。飛行機のように何度も離着陸できる再使用型ロケットの研究を進めている。「宇宙は特殊だ」と狭く閉じこもっていてはいけない。
◇無限の宇宙、国際協力参加を--小野晋也・衆院議員
私たちが学生のころは、宇宙に新しい活動の場を求めることが夢だった。私たちは一番夢を語り合った世代だったのではないか。土井君と私が、その中心にいたと思う。土井君は夢に一直線で進むタイプだったから、「宇宙飛行士になった」と聞いたとき、「やはりそうか」と感じた。
81年にシャトルが登場した。「再利用型の宇宙往還機だから、打ち上げ費を大幅に削減できる」との触れ込みだった。このため、「日本のロケットは不要になる」とささやかれ、悩んだ結果、私は政治の道に入った。
私は、今後の日本の宇宙開発を、あまり限定的に考える必要はないと感じている。宇宙は無限だ。無限を相手にちっぽけな枠組みを作っても意味がない。だから、日本はもっと宇宙利用での国際協力に積極的に参加すべきだ。きぼうについては、これだけお金と時間をかけた事業だから、国民の視線から再評価し、国民が夢を感じられるものにしていかねばならない。
◇月面に日本人宇宙飛行士を--川口淳一郎・JAXA教授
土井さんは学生のころから努力家で、何事にもあわてずじっくり取り組むタイプだった。今回の任務は、日本の有人施設を初めて宇宙に設置するという重要な役割になるが、期待にこたえてほしい。
国際宇宙ステーションは国際協働での大掛かりな実験であり、日本が先進国の一員であることを象徴する活動といえる。将来、宇宙飛行士が月面に行くなら、ぜひ、その中に日本人が入っていてほしい。そういう国の国民であるということはうれしいから。
一方、フロンティアの最前線に人間がいきなり行くのは危険もあり、その場合は無人探査機が先陣を切る。有人宇宙活動にかかる費用をどう考えるかは議論があるかもしれないが、未知の領域をのぞいてみたい、宇宙に行きたいというのは、人類が基本的に持っている欲求だと思う。
宇宙活動によって多くの若者が科学技術に感化され、さまざまな分野で活躍してくれることを期待している。
◇滞在16日--「きぼう」第1便、11日に打ち上げ
土井さんが乗り組むエンデバーは、米フロリダ州の米航空宇宙局ケネディ宇宙センターから11日午前2時28分(日本時間同午後3時28分)に打ち上げられる。帰還は26日午後8時35分(同27日午前9時35分)の予定。飛行時間は15日18時間7分で、ISS組み立ての飛行では過去最長。飛行日は、クルーの起床から1日が始まるため17日となる。
主な任務は、きぼうの保管室設置、カナダ製ロボットアームの組み立て・取り付け、ISSの長期滞在飛行士の交代--だ。
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◇「エンデバー」の飛行計画◇
1日目 シャトル打ち上げ
2日目 軌道上で機体の損傷点検
3日目 ISSとドッキング
4日目 土井さんがロボットアームを操り、きぼう保管室をISSに設置。米国人飛行士が第1回船外活動。カナダ製ロボットアーム組み立て開始
5日目 保管室の電源を入れ、土井さんが入室
6日目 米国人飛行士が第2回船外活動
7日目 土井さんが日本政府要人と交信(予定)
8日目 土井さんは保管室内の物品の整理作業。米国人飛行士が第3回船外活動
9日目 保管室内の整理作業。休息日
10日目 休息日
11日目 JAXA募集で作成した宇宙連詩を収録したDVDを保管室に収納。米国人飛行士が第4回船外活動
12日目 帰還にあたっての機体の損傷点検
13日目 土井さんは船内保管室の温度点検。米国人飛行士が第5回船外活動
14日目 休息日。乗組員の合同記者会見
15日目 ISSからの分離
16日目 船内の片付け。軌道離脱準備
17日目 軌道離脱。シャトル着陸
毎日新聞 2008年3月9日 東京朝刊