妊娠、出産を機にうつ病を発症し、現在も闘病中の鳥取県内の女性が、自身の体験記「子供嫌いなかあちゃん」(文芸社)を出版した。壮絶な闘病生活、自殺未遂、家族との葛藤(かっとう)の日々−。ありのままの自分を受け入れ、病気と向き合う姿が、飾りのない言葉でつづられる。女性の生き方が多様化する現代、「自分と同じ病や育児に悩む人の一助になれば」という作者の願いが込められた一冊だ。
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「子供嫌いなかあちゃん」。表紙のイラストも水月さんが描いた
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本を出版したのは、県内在住の水月凛(みづきりん)さん(37)=ペンネーム=。両親の不仲を見て育った幼少期。「結婚・出産=女性の幸せ」とは思えず、生涯独身と決め、仕事に情熱を注いでいた。
転機は五年前。思いがけず妊娠が発覚した。「多くの女性がそうしているし、私にだってできる」。悩んだ末、結婚と出産を決意するが、産後うつ病とパニック障害に陥った。
不安、無気力、焦燥感…。おなかを痛めて産んだわが子を愛せない自分を責め、病気にどう対処していいか分からず自暴自棄に。県内の病院を転々とする生活、二度の自殺未遂。出口のない迷路をさまよい続けた。
ある日、半年ぶりに会ったわが子に「かあしゃん!」と呼ばれた。「こんな欠陥品の母親を受け入れてくれるの?」。涙があふれて止まらなかった。「この子の声に応えたい」
現在、水月さんはアダルト・チルドレン(AC)の自助グループに参加し、周囲の協力を得ながら、一歩ずつ回復への道を歩んでいる。「子どもは私を大人へと導いてくれる大きな存在。子どもなんていらないと思っていたけど、今は生まれてきてくれてありがとうと言いたい」
核家族化が進み、男性の育児参加など子育て事情は様変わりしたものの、「子育ては母親の役目」という考えは根強く、産後うつ病の実態もあまり知られていない。
「良いお母さんにならなくてもいいんです」と水月さん。「育児は一人ではできないし、闇の部分もある。心を病むのが人ならば、手を差し伸べるのも人。心が痛くなったとき、『助けて』とはっきり打ち明けられる環境、母親を救済する場所をつくってほしい」と病気が理解される社会になることを願っている。
「子供嫌いなかあちゃん」は四六判、百四十四ページ、千百五十五円。インターネット書店などで購入できる。