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2008年03月09日(日曜日)付

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地上げ―暴力団を潤す企業の罪

 都心の地価が上向いたとたんに、また強引な地上げが始まっていたようだ。周りには資金集めをねらう暴力団の影がちらつく。

 そんなバブル期を思い起こさせるような事件が摘発された。

 舞台となったのは、東京の一等地に立つビルである。ここで地上げを請け負った不動産会社「光誉実業」の社長ら12人が、警視庁に逮捕された。弁護士でなければできない入居者との立ち退き交渉をしたという弁護士法違反の疑いだ。

 光誉実業は山口組系暴力団とつながりがあったという。そんな危ない会社に地上げを頼んだのが、東証2部に上場している不動産・建設会社「スルガコーポレーション」というのだから、まったく驚いてしまう。

 スルガ社は都心の五つの物件の立ち退き交渉について、約150億円で光誉実業に依頼した。必要な経費を除くと、数十億円が光誉に転がり込んだらしい。

 その一部が暴力団に流れた、というのが警察の見方である。スルガ社の地上げ資金が、結果的に暴力団の資金源になっていた疑いがあるのだ。

 暴力団対策が社会の大きな課題となっている時に、上場企業がなぜ、こうした組織につながる会社と組んでしまったのか。あまりに罪深いと言うほかない。

 暴力団がなかなかつぶれないのは、暴力団を利用する人たちや企業が絶えないことも大きな原因だ。地上げを早く進めて大きくもうけるために、スルガ社も暴力団とのかかわりに目をつぶってきたと言われても仕方あるまい。

 スルガ社は「光誉実業と暴力団との関係に気づいたのは昨年6月」と説明する。だが、警察はもっと早くから知っていたとみている。もともと地上げ業者の中には、背後に暴力団のいる例が以前からあったからだ。

 さらにスルガ社が問題なのは、昨年6月以降も約半年にわたって、光誉実業との取引を続けていたことだ。なぜすぐに関係を断ち切らなかったのか。

 そもそも光誉実業のやり方は、荒っぽかった。入居者を威圧する。いやがらせをする。「やくざ映画から出てきたような男を引き連れていた」と話す入居者もいる。そんな地上げの実態をスルガ社が知らなかったとは思えない。

 光誉実業は「スルガ社からビル所有権の譲渡を受けた」という偽の書類まで作り、入居者をだましながら交渉していた。あきれたことに、スルガ社の社長はそれを知っていたという。

 社長は辞めたが、それだけでは済まない。警察には、スルガ社のかかわりも含めて、事件の全体像と金の流れをきちんと解明してもらいたい。

 暴力団をつぶすには、警察の強力な取り締まりだけでなく、企業や市民が暴力団と一切かかわりを持たないことが必要だ。そのことを今回の事件は改めて教えている。

マイクロソフト―大転換から日本も学ぼう

 パソコンソフトの巨人、米マイクロソフト(MS)が「創業以来の大転換」に踏み切った。秘中の秘としてきた基本ソフト「ウィンドウズ」や応用ソフト「オフィス」などのプログラム情報を、無償で公開すると発表したのだ。

 この「転向」には懐疑的な見方もある。欧州の独占禁止規制当局からの追及をかわす方便だとか、ネット検索大手ヤフーの買収を進めるためのイメージ戦略に過ぎない、といったものだ。

 たしかに、ウィンドウズの心臓部である「ソースコード」の公開を見送るなど未練がましい面もある。だが、IT(情報技術)分野で加速する枠組みの大変化に、さすがの巨人も抵抗できなかった、という大きな構図でとらえたい。

 つまり、特定の企業が知識や人材を囲い込み、商品を特許などで守りながら独占的に販売する。そんな「閉じた」経営や開発の手法が行き詰まってきた。

 代わって台頭したのは、情報をオープンにして社外の才能に開発や商品化の機会を与え、彼らと連携することで競争力を強める「開かれた」戦略である。この代表が検索最大手の米グーグルだ。

 長い目で見れば、MSもこの流儀に宗旨替えせざるをえない。「長期的な成功のためには、オープンで柔軟な技術基盤の提供が必要だ」というスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)の言葉が、それを物語っている。

 思えば、MSは妙な企業である。21世紀を担う先端的なIT製品を世界中へ送り出しながら、体質のほうは20世紀によく見られた古い独占志向の企業だからだ。20世紀と21世紀の境目を体現しているようにも見える。

 この変化を日本企業はどう受け止め、対応したらいいだろうか。

 日本は、大企業が系列の下請けを従えるピラミッド構造の「閉じたモノづくり」によって、戦後の経済発展を実現した。しかし、いまやこのやり方が壁に突き当たり、暗中模索している。

 IT産業ですら重層的な下請け構造に頼っており、体質はMSよりも古くさい。ピラミッドを壊し、独創性のある企業がさまざまに結びつくネットワーク型の産業構造に転換することが課題だ。MSの大転換は、その好機だろう。

 他の製造業でも、ネットワーク型の連携が始まっている。米ボーイング社は新型旅客機「787」の開発で、秘中の秘だった設計ノウハウなどを協力企業の三菱重工業や東レに公開した。開発能力を高め、性能の向上を図るためだ。

 地方の中小企業でも、独自に海外まで結びつきを広げ、成功している例がいくつも登場している。

 なんでも囲い込んで上下関係で縛る時代から、オープンで対等な協力関係が多くの実りを生む時代へ。グローバル競争のなか、産業のあり方が世界規模で大きく変化している。日本の産業も体質を切り替えていかなければならない。

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