住民基本台帳ネットワーク (住基ネット)の運用はプライバシー侵害で違憲として、大阪府吹田、守口両市の住民が各市に住基ネットからの離脱を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は「拒絶している住民への適用はプライバシー侵害で違憲」とした二審大阪高裁判決を破棄し、住民の逆転敗訴が確定した。
判決は「住基ネットはプライバシー権を侵害せず、合憲」とする初判断を示した。各地の住民が起こした住基ネットをめぐる訴訟は行政側の勝訴で事実上決着した。
住基ネットは氏名、生年月日、住所、性別の四情報と変更情報、十一けたの住民票コードの六情報をコンピューターで一元管理し、行政機関が利用する。二〇〇三年八月に本格稼働したが、情報漏えいなどを危惧(きぐ)する声が計画段階からあった。
住民側は、自分の情報の取り扱いを自ら決める権利を侵害する、住民票コードを中心に行政が持つ各種情報を「名寄せ」し、目的外利用される恐れがあるなどと主張した。
判決は、住所、氏名など四情報や変更情報は「一定の範囲で他者への開示が予定される情報で、個人の内面にかかわる秘匿性の高い情報とはいえない」とし、住基ネット導入前から行政機関がやり取りしてきたとも述べた。安全性については「不当なアクセスで情報が容易に漏えいする危険はない」とし、情報の目的外利用や漏えいに懲戒処分や刑罰がある点も指摘した。
現状では比較的秘匿性の低い情報を扱っており、安全措置もあるから大丈夫、との判断である。
だが、住民側弁護団は「住基ネットへの国民の不安に答えていない」と批判した。
住基ネットの普及率が1・6%にすぎないことが、不安の表れといえよう。接続を拒んでいる自治体もある。
根底にあるのは行政に対する不信感だ。実際、ネット情報の漏えいは起きている。受託業者が自治体の持つ住民票コードなどを漏らした事例があり、他人に成り済ました住基カードの不正入手事件もあった。年金記録不備問題にしても社会保険庁の情報管理のルーズさが生んだことだ。
総務省などは、住基ネットが信頼されていない現状を踏まえ、まず安全策の強化など不安を解消する努力をしなければならない。
合憲判決を受け、総務省は利用拡大を図る構えもみせている。納税や病歴など、立ち入った個人情報への適用を懸念する意見は根強い。拡大には慎重であるべきだ。判決は現状を認めただけで、全面的なお墨付きではない。
国連安全保障理事会は、安保理決議を無視してウラン濃縮活動を続けるイランに対し、三度目の制裁決議を採択した。
インドネシアが棄権に回ったため、初めて全会一致での採択が崩れた。イランへの圧力を高める国際社会の毅然(きぜん)たる意思を示すまでには至らなかったといえよう。
欧州勢が提出した決議には、イランの核関連機関高官らの外国渡航禁止や、イランの輸出入貨物の検査が新たに盛り込まれた。
イランの核兵器開発疑惑が発覚したのは二〇〇二年だ。ウラン濃縮活動停止を拒否したため、国際原子力機関(IAEA)は〇六年二月、この問題を国連安保理に付託した。安保理は同十二月と〇七年三月に制裁決議を採択し、核やミサイル関連の取引を禁止したほか、米国も独自に追加制裁を科した。
今回の制裁決議に対しイランは、平和利用目的の核開発は核拡散防止条約(NPT)で認められた権利と主張する。制裁を受け入れ、今後も濃縮活動を継続するのは確実だ。強気の背景には、二度の国連制裁発動にもかかわらず、国民生活に直結するような経済の大きな混乱が起きていないことがあげられよう。
イランは制裁決議への対抗措置として、欧州連合(EU)との核交渉を打ち切る考えを表明した。「核開発は続けるが、外交交渉には応じる」との方針を撤回し、米欧との対決姿勢を明確にした形だ。
中東を取り巻く情勢は緊迫し、先行き不透明だ。イランが核兵器開発につながりかねないウラン濃縮活動を続けることは国際不安を助長させる。国際社会は核問題解決のために制裁の実効性を検証したうえで、さらなる対応に結束を強めねばならない。
(2008年3月8日掲載)