◇群がる経済ヤクザ
東京・六本木の旧防衛庁跡地に大規模複合施設「東京ミッドタウン」がオープンしたのは昨年3月のことだ。
東証2部上場の不動産会社「スルガコーポレーション」(横浜市)が、すぐそばにある結婚式場の土地・建物を買収したのは、その3カ月後だった。「20億円はくだらない」。地元の不動産屋は、そろばんをはじく。
「うちも地上げの対象になっていたかもと心配しました」。スルガ社が暴力団と関係が深いとされる建設会社「光誉(こうよ)実業」(大阪市)社長、朝治(あさじ)博容疑者(59)=弁護士法違反容疑で逮捕=らに立ち退きを依頼してきたことを知った賃借人の式場運営会社は、不安を隠さなかった。
ビルを買収し、更地で転売するビジネスモデルは、スルガ社を1部上場が狙える企業にまで押し上げた。可能にしたのは「都心バブル」ともいうべき地価の高騰だった。
大手不動産会社の役員は「投資信託法の改正で不動産投資信託が解禁された00年末以降、ビルを地上げすれば買い手の投資ファンドはいくらでもあった。賃料が高い都心ほど高く売れた」と明かす。
不動産投資信託は、担保価値が下落した「塩漬け」の不動産を流動化させようと考案された。投資家から資金を集めてファンド(基金)を作り、不動産を買う。さらにファンドは、ファンドを専門に扱う東証のリート市場に上場され、金が流れ込むシステムだ。
80年代後半のバブルが崩壊し、大半の地価が下落を続ける中、都心部は03年ごろから、投資信託の影響で上昇に転じる。「都心の不動産につぎ込まれた額は約20兆円」と言われている。スルガ社が買いあさった11棟もすべて都心だった。
東京・多摩地区の私鉄駅前に広がる約1万6000平方メートルの一等地。ある不動産会社が02年に約20億円で取得した土地は、たった4年で約50億円に値上がりした。
不動産会社に売却を迫った総会屋が06年4月、商法違反(利益要求)容疑で逮捕された。「『新宿の社長』に頼まれた」と供述した。「社長」は、警視庁が山口組後藤組の金庫番とみる人物だった。
ミッドタウンから東へ約500メートル。外務省の飯倉公館近くに約450平方メートルの更地がある。04年7月、ここにあったテナントビル(8階建て)を購入したのは、後藤組幹部が登記簿上の代表となっている会社だった。半年後、ビルは売却された。
豊富な資金力を背景に、合法的に巨額の資金を稼ぐ暴力団。「利益を生み出す仕組みがあれば、暴力団が群がる」。捜査幹部は苦々しげに語った。
毎日新聞 2008年3月7日 東京朝刊