2008年3月8日 [土]
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住基ネット合憲 拡大へのお墨付きではない

社説

住基ネット合憲 拡大へのお墨付きではない

 最高裁第一小法廷は6日、「住基ネットはプライバシー権を侵害せず、合憲」とする初判断を示した。大阪府吹田、守口両市の住民が住基ネットからの離脱を求めた訴訟の上告審判決である。千葉、愛知、石川各県の住民が起こした訴訟も住民側の上告が棄却され、行政側の勝訴で決着した。しかしプライバシー権侵害の不安が完全に払(ふっ)拭(しょく)されたわけではない。まだ疑問も多く、この判決が住基ネットの適用拡大にお墨付きを与えたことにはならない。まず、このことを指摘しておきたい。
 住民側は、本人の情報の取り扱いは自分で決める「自己情報コントロール権」を侵害すると主張した。これに対して最高裁は、この権利の有無については触れず、管理、利用される個人情報の秘匿性の低さ、情報を適切に取り扱うための制度的な措置の存在、さらにシステムに欠陥がないことなどを挙げて合憲と結論を出した。
 住民弁護側の反発は強い。全国弁護団団長の山本博弁護士は「肝心の争点を回避するのは憲法の番人としての職務放棄」と批判した。
 住基ネットに対する国民の理解はまだ十分ではない。背景には、個人情報を一元管理されたり、乱用されることへの不安がある。
 判決は「情報の目的外利用や秘密の漏えいなどは懲戒処分や刑罰で禁止されている」ことなどを挙げ「具体的な危険が生じているともいえない」としている。
 しかし、禁止されているから目的外利用や漏えいは「ない」はずだといわれても、納得できるものではない。現実に情報漏えいは起きている。昨年5月、愛媛県愛南町で全住民の氏名や住所、住民票コードなどの個人情報が流出した問題である。
 最も大きな疑問は、そもそも本当に必要なシステムなのかという
ことだ。住基ネットのシステムが本
格稼働したのは2003年8月。4年余経過した今年1月末の住基カード普及率はわずかに1・6%である。この間、離脱を求めた住民訴訟なども多数起こされている。
 さらに、東京都の杉並区、国立市、福島県矢祭町の3自治体は住基ネットに参加していない。合憲判決を受けても国立市長は「住民の利便性より情報漏えいの危険性の方が高い」と判断している。
 住民側には「国家による監視社会」化への懸念もある。今回の最高裁判決をお墨付きとして、行政機関が軽々に他情報への適用拡大を進めては困る。
 二審の大阪高裁は「行政機関が情報を結合し、事実上自由に利用する危険性がある上、中立的な第三者機関の監視がなく制度的な欠陥」があると指摘した。最高裁は否定したが、懸念は依然残る。行政の慎重な対応を求めたい。

(3/8 12:41)