OECD主催でタイトルの趣旨のセミナーが開催されていたので、仕事の合間を縫って参加してきた。スピーカーのマイケル・コナーズ氏の所属しているのが、このように
ハーミーズ・ペンションズ・マネジメント(ハーミーズ)は1983年に設立され、1995年にはブリティシュ・テレコムとブリティシュ・ポストオフィスの年金運用を主体とするBTペンション・スキーム(BT Pension Scheme)の基で改組された。
同基金は現在、他の年金基金、保険会社など約240の顧客を持ち、委託運用総資産額は約690億ポンド(16兆5600億円:2006年12月末現在)。特徴は、長期の株式運用をベースとして、企業経営者との対話を重視した『責任ある投資活動(Stewardship)』を提唱していることにある。巨額な運用額のみならず、運用スタイル、情報収集・分析力においても、英国、欧州における機関投資家の中核的存在として位置付けられている。
年金運用に端を発しており、短期のボラティリティではない中長期の成長にコミットするタイプの投資家となっている。つまりは、東京市場がさがってけしからんと一部の人が言っているところに直接資本でカバーするならまぁこのタイプの人ですよねという投資家と理解してよい。
中身に行く前に私自身の現状の立場の確認をすると
こんなところとなる。直接本分野に関わっている訳ではないが、仕事上も見ておくべき分野であり、個人としても非常に興味のあるところになる。
英国人長期機関投資家の視点
プレゼンから気になったところを幾つか。内容的には、この辺のテーマを追っている人なら特段目新しいところではなく、あらためてのステータス確認というものになる。
◇「日本は投資先国として、本来持つ実力より低い魅力しかないのが現状である」:
理由として、コーポレートガバナンスと経営手法が挙げられている。もうひとつ加えるべきはこのところの政治状況だろう。海外の大手メディアでは何度無く取り上げられているテーマであるが、トーンとしてはロバート・フェルドマンのこのコラムが概ね総意に近いところと思われる。
一言でいうと、日本のマクロ改革もミクロ改革も逆戻りをしているからである。この傾向は、すでに小泉純一郎政権後半の与謝野馨経済財政・金融担当相時代に遡るが、安倍晋三政権になって加速し、福田康夫政権になってさらに加速した。足元に信用不安があるのは確かだが、日本市場はそう直接影響を受けてるものではない。また、企業収益からすると、(来期見通しが悪くなってきてはいるが)もうちょっと伸びても良いんじゃないかという企業は個別にはある。
ポイントはこの主張が本当にそうかではない、「投資家サイドはこう考えて判断している」というところにある。誤解なら誤解を解くアクション、課題なら課題をクリアするためのアクションがそれぞれ必要となる。
今の日本企業の問題、経営者のよくある悩みのひとつは、「なんだか株価が下がっている。そして最近買収だM&Aだと騒がれている。ウチの会社も狙われないか心配だし、得体も素性も分からん連中に株を買占められるのも嫌だ。どうすれば良い」という感じになる。
◇「営業利益率が50%あり、資産の75%を現金と有価証券で持ち、配当性向が4%以下の会社を効率の良い会社とは言えない」:
具体的な数値が出ているためにピックアップ。典型的に当てはまるのはもちろん、安定した市場で長年ビジネスをしている優良中堅企業に多いパターンであり、買収の対象として狙われやすいグループでもある。また、実際にTOBといった展開になった場合、生理的に近い強い拒否反応を見せる傾向も同時にある。
というところまでは良く触れられるところだが、上場後のネット系企業でもバランスシートを眺めていると似たような状況にあるのは珍しくない。例えば、このところいろいろな意味で話題のミクシィの資産のおよそ8割は現金同等物になっている。当然、成長期待銘柄なため手元現金についてはそこまであれこれは言われないが、となると問われてくるのは「では、成長しているかどうか」である。
ベンチャー企業、成長段階に指しかかろうかという企業でガバナンスがどうあるといいのかというテーマは考え出すと結構難しい。ある面、事業としてのコスト要因になりうる事、ベンチャーがそれらしく動くために根っこのところで邪魔しかねないこと、とはいえ、外部資本をまっとうな形で取り入れるのなら対応するのはもはやお作法と言っても良いという条件は単純には揃わずトレードオフが発生する。このテーマについては、項を改めたい。
◇「上場企業のオーナーは株主であり、経営陣ではない」「日本企業の経営体制には独立取締役による透明度の高い意思決定と、株主を代表した社外監督者の機能を備えていて欲しい」:
いわゆるガバナンスの問題となる。本テーマについては質疑の場面も含めて制度の問題から発展経緯から幾つかの意見が出されたが、根っことしては経営サイドが社外取締役を入れるのを嫌がっているというところに帰着するのではないだろうか(これは会場でも指摘されていた)。
実際に社外取締役をされているという方も多数来られていたが、結局のところ、雇い主は経営者となり株主ではない。合わせて、制度理解が無く「仕方なくしぶしぶ席だけ作っている」という状況だと、機能するのを期待する方がおかしいくらいになる。
そもそものコーポレートガバナンスの必要性
つまるところ、コーポレートガバナンス確立が何に寄与し、その中で社外役員はどのような振る舞いをするのが良いのか。「足元の経営と業績が良くても、ガバナンスが悪いと先々悪化していくリスクを抱えてるとして、不信任の意思を示すことがある」との一言がコナーズ氏より示されていた。要すれば、この一言に対してどのような体制と動き方を示すと信頼を得られるのかが、乗っ取り解体屋ではない、長期安定の資本を求めている日本企業に提示されている課題と言える。
◇
と、一通り書いた後に実は見てみたいのは、本エントリがCNET上でどれくらいのViewとフィードバックを得るかである。ガバナンス至上主義は採らないが、それなりに投資家として内外いろいろな会社や市場を見ているため、何をやってるか分からないし信用するに十分な情報が出ていない状況では手を引っ込めがちになる気持ちは良く分かる。
年金基金を含めたファンド側の主張が端から端まで絶対ということは無い。しかし、主流のひとつであり、資本市場にアクセスするなら避けて通るのは難しいプレイヤーでもある(特に日本企業は避けていては宜しくないところだろう)。という認識がどれくらいあるのか、あるいは、そんなことは気にせず別の方針で行くよ、となっているのか。
日本企業に投資しにくい、と思ってるのは必ずしも海外資本ばかりではないというのは触れておきたい。
追伸:
ちなみに、「おれっち関係ね〜」と思っている個人の方には、本日の日経記事にもあったように、国内年金運用が株価低迷を受ける形で運用益がマイナスになっているという事実を付記したい。もちろん、資本の性質としては上記の話に該当するのは言うまでも無い。
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フィードバック待ちだ、と言うので調子に乗って一言。
日経BPかと思っちゃいました。ITmediaの誠ってコンテンツにもこういった話はよく出てますね。
この件に関しては、企業、個人という区別なく、日本人(って定義が難しいな)の精神性が関わっているような気がします。
「外国」「機関」「投資家」と言うのは企業経営に対する外的関与として拒絶する対象の三題話みたいなものです。それも、論理的な拒絶ではない。印象的というか、生理的というか。
しかしながら、今回挙げられている問題点は「外国だから問題にしている」のではなく、投資対象として根本的に問題であるわけですよね。それでもやっぱり拒絶感は強い。結果として、株の買戻しと上場廃止なんてこともずいぶん起きている。
突き詰めると、日本の投資市場(間接金融市場全体)のこれまでのあり方が拒絶感の根拠であって、日本人(ここの定義は難しいですよ)の「投資」行為自体に対するアレルギーを解除していくことこそ第一歩だと思います。たとえ企業人であっても、日本においてはこのアレルギーに大なり小なり影響を受けていると思います。
その拒絶感の根拠となっている(かもしれない?)透明性とか、公平性とか、正当性とか、機会均等性とか、リスクテイクとか、そういった部分での疑念とか誤解とかを解消していく状況を、特に国内の市場運用側が示せるかどうかが、一つのカギだと思いますが、いかがでしょうか。