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今シーズンはあらたにゼッケン1番を付けて走ることになったケイシー・ストナー選手は、冬のテストでも速さを見せていました。 |
'08 MotoGP Rd.1 カタールGP ここが見所!
'08 カタールGP 3月8日〜3月9日開催
山田宏 (ブリヂストン モーターサイクルレーシングマネージャー)
はじめに
いよいよ2008年のMotoGPが今週開幕します。今年も今週のカタールGPから、最終戦の10月26日バレンシアGPまで、全18戦の戦いが繰り広げられます。我々は昨年参戦6年目にして、念願のチャンピオンを獲得出来ました。昨年の最終戦が11月4日に終了してから、ちょうど4ヶ月が経ちました。今年のシーズンオフは、我々にとってあっという間に過ぎ、チャンピオン獲得の余韻に浸る暇もありませんでした。開発陣にとっては、11月に3回、1,2月で5回のテストがあり、本当に休む暇もなく開幕戦に突入したという感じです。我々は今年ディフェンディングチャンピオンとして、また新たな戦いが始まります。
今年のMotoGPも話題満載です。以下に今年の見所をまとめてみましょう。
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中野真矢選手は、2年ぶりにブリヂストン勢に復帰。昨シーズンは苦しいシーズンでしたが、心機一転、上位を目指します。 |
1. マシン
昨年排気量が800ccに引き下げられましたが、今年は排気量の変更はありません。現在ドゥカティ、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの5メーカーが参戦していますが、各メーカー共、昨年からのエンジン型式の変更はなく、更なる熟成を図ってきています。冬のテストを見ていると、更なるラップタイムの向上が見られます。
2. タイヤ規制変更
昨年から初めてタイヤ規制が導入されました。木曜日にフロント14本、リア17本の合計31本を各ライダー毎に登録して、決勝まで登録タイヤのみの使用が許されました。(WETタイヤは除く)今年はこの本数が増加され、フロント18本、リア22本の合計40本の登録が可能となりました。フロント4本、リア5本増えるということは、1スペック追加する事ができるという事です。昨年の場合、コースによってですが、リアは3〜4種類プラス予選タイヤ2本というのが標準だったのですが、今年はもう1種類と予選タイヤを増やす事ができます。
3. チーム・ライダー
今年は例年以上に、ライダーの移籍が多い年です。昨年のトップ10のライダーのうち5人が移籍していて、かなり入れ変わったという印象です。
今年我々は6チーム/11人のライダーにタイヤを供給します。昨年から1チーム/1人が増えています。ちなみにライバルのミシュランは5チーム7台へ供給します。それでは我々のサポートチーム/ライダーを紹介しましょう。(2007年のチームランキング順に紹介します。)
●ドゥカティ・コルセ・チーム
昨年のチャンピオンC.ストナーはゼッケン1番を付けて走ります。昨年はライダー、チーム、コンストラクターの3部門でチャンピオンに輝きました。ストナーはチャンピオンの貫禄十分で、冬のテストでも速さを発揮しています。マシンはマイナーチェンジですが、相変わらず安定した速さです。今年も彼を中心にトップ争いが繰り広げられることでしょう。チームメイトは、グレシーニホンダから移籍したM.メランドリです。メランドリもMotoGPで5勝を挙げており、25歳の彼も、6シーズン目のMotoGPで、もうベテランの域に達しています。初めてのドゥカティをどう乗りこなすかが楽しみです。
●リズラ・スズキ・MotoGP
ライダーは昨年と同じ、C.バーミューレンに、ドゥカティから移籍したL.カピロッシです。昨年雨のフランスGPで初優勝を飾ったバーミューレンは、安定度も増しスズキでのMotoGP3シーズン目に期待されます。L.カピロッシはドゥカティで6勝を挙げた、今年で世界選手権18年目!34歳の彼はMotoGP最年長の大ベテランです。心機一転新しいマシンでの活躍が期待されます。
●フィアット・ヤマハ・チーム
今年の大きな話題のひとつは、何と言ってもV.ロッシのブリヂストンへのスイッチです。彼の活躍は説明するまでもないですが、GP5002年目の2001年にチャンピオン輝き、ヤマハに移籍した2004年、2005年と5年連続チャンピオンを獲得しました。GP500/MotoGPクラスでの62勝/99回の表彰台は歴代1位の記録です。我々もMotoGPに参戦した2002年から、ずっと彼を最大のライバルとして考えていましたが、まさか一緒にやる事ができるとは!また我々にとって、ヤマハのマシンも初めての経験で、お互いにビックチャレンジと言えます。チームメートのJ.ロレンゾはミシュランタイヤ使用と、ヤマハユーザーで1人だけ我々のタイヤ使用と特殊な状況ですが、冬のテストではすでに「タイヤのフィーリングはすごく良い!」とコメントしており、新しいロッシの戦いぶりが非常に楽しみです。
●チーム・サンカルロ・ホンダ・グレシーニ
グレシーニレーシングが、新しいメインスポンサーを獲得して、カラーリングが変わりました。そしてライダーは一新。中野真矢選手が我々の陣営に戻ってくれました!昨年ホンダに移籍したものの、苦しいシーズンを送りましたが、今年はチームとタイヤを変えて心機一転、これまでのテスト結果も順調でモチベーションも上っています。もう1人は、昨年250ccランキング3位のA.デアンジェリス。彼も始めてのMotoGPマシンを十分に乗りこなしていて楽しみな存在です。
●アリーチェ・チーム
ドゥカティサテライトチームの、プラマックダンティンが、イタリアの電話会社をメインスポンサーに迎え名前を変えました。ライダーは昨年グレシーニレーシングで、表彰台を2回獲得したT.エリアスと、ヤマハテック3から移籍した、S.ギュントーリ。どちらも初めてのドゥカティでの活躍が期待されます。
●カワサキ・レーシング・チーム
ライダーは昨年ルーキーのA.ウェストに、スズキのエースJ.ホプキンスが加入しました。昨年ランキング4位のホプキンスは、25歳の若さながらMotoGPは7年目というキャリアです。アグレッシブな走りの彼が、カワサキのマシンをどう乗りこなすか楽しみです。
一方今年我々の最大のライバルは、2006年チャンピオンのN.ヘイデンとD.ペドロサのレプソルホンダチームと、ロッシのチームメート、昨年の250ccチャンピオンのJ.ロレンゾでしょう。特に今年はホンダが必勝体制で、ワークスのレプソルホンダには、他のホンダライダーと違うマシンを投入しています。そしてフィアットヤマハのロレンゾは、初のMotoGPマシンですが、冬のテストでは才能の片鱗を見せています。他にも250ccからステップアップしたA.ドビチオーゾ、カワサキから移籍したR.デュプニエがホンダのマシンで、昨年ワールドスーパーバイクチャンピオンのJ.トースランド、昨年ロッシのチームメートだったC.エドワーズがヤマハのマシンで走ります。
予選、決勝の見所
中東のカタールでは2004年からレースが開催されています。カタールという国は、アラブ首長国連邦の北にある半島で、人口約100万人で面積が秋田県とほぼ同じという小さな国です。カタールの首都ドーハから車で30分くらいの、砂漠の中にロサイルサーキットがあります。一周5.38kmのコースは、中高速サーキットと言えます。ここの路面は、出来た当初は非常に滑りやすかったのですが、年々良くなり、毎年ラップタイムも向上しています。コースが砂漠の中にあるため、通常最初の走行時には路面が非常に汚れています。そして何と言っても今年の最大の見所は、MotoGP史上初のナイトレースということでしょう。昨年の後半から準備され、コースサイドにもの凄い数の照明灯が設置されました。最新技術を駆使して、十分な明るさを確保し、影の影響を極力少なくするように設計されています。耐久レース以外では、世界選手権では勿論初の試みですが、先週のテストではライダーの評判も上々でした。しかしライダーに聞くと、やはり昼の見え方、感覚とは違うということで、この状況への慣れやすさに個人差があるかもしれません。ちなみに雨が降った場合、光が反射してしまうので、安全性が確保されない場合は中止になる可能性があるということです。そしてレースは夜11時にスタート!通常朝9時スタートのプラクティスが、夜7時からで、通常2時スタートの予選が夜11時からと、金曜日から完全に夜型のスケジュールになるので、ライダーの体調管理も難しそうです。
もともとナイトレースの発想は、この地域は春から秋にかけて昼間は暑すぎるので、快適な夜にやるというものですが、3月初旬のこの時期では、夜の時間は温度が下がり寒いくらいです。昼は半袖で快適なのですが、周りが砂漠の為日没後はどんどん気温が下がります。先週のテストでも、夜11時過ぎると、気温も15℃以下に下がっていました。日が当たらないので、路面温度も気温とほぼ同じで、路面15℃というのは他のGPではない低いレベルです。
予選では今年のタイヤ規制の変更により、予選タイヤの数を増やすライダーがほとんどでしょう。昨年は2本の予選タイヤが標準でしたが、今年は3本か、ライダーによっては4本入れる人もいるでしょう。予選タイヤを増やすという事は、アタックの回数が増えるので、タイムアップにつながり、予選終盤はますます白熱するでしょう。
タイヤ
上記に書いたように、今週の課題は低温下の状況で、いかにウォ−ムアップ性(温まり)、グリップ、グリップ耐久性のバランスをとるかです。このロサイルサーキットは、我々のタイヤとの相性は良くありませんでした。昨年それをやっと克服出来て、ストナーが開幕優勝を果たしたのですが、昨年までと比べると、路面温度で30℃近くも低く、全く異次元の世界といえます。通常もそこまで低い事はないので、我々としてもデータはほとんど無いのです。そして先週のテスト結果は、あまり芳しくありませんでした。やはりこのコースで低温下では、グリップさせるのが難しい状況です。
今回我々は約1200本のタイヤを持ち込みます。タイヤは昨年終盤に使ったスペックをベースに進化させたものです。そしてこの低温に対応する為に、新しいコンパウンドも準備しています。各チームフロントは2〜3種、リアは3〜5種+予選タイヤをチョイスする事になると思われます。
ライダーの移籍などで話題満載の2008年シーズンがいよいよ始まり、我々も緊張しています。今年も厳しい戦いになると思いますが、連覇を目指して我々も全力投球します。皆様の熱い応援をよろしくお願いします。
カタールGPの決勝は3月9日(日)です。ご期待下さい。
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■ドーハ 5.38km×22周=118.36km |