農山村地域では医療サービスが低下し、住み慣れた地域で今後とも暮らすことが、困難になるのではないかとの不安が強まっている。このため、JAグループは、高齢者の状況や変化に応じて、きめ細かい保健、医療、介護が受けられる「地域包括ケアシステム」(尾道方式)に取り組むことになった。2008年度中に、同システムのJA版を作成する。自治体や民間事業者との連携など課題は多いが、積極的に挑戦すべきだ。
医師など専門職の不足だけでなく自治体の財政悪化で自治体病院がなくなるなど地域医療の崩壊が心配されている。都市に比べ地方では人口が少なく不採算のため、民間事業者の参入も消極的だ。
JAグループは厚生連による病院などの医療事業、JA・連合会による健康診断などの健康づくり活動、JAによる介護サービスなどを実施している。病気の発症を予防する活動から治療や介護が必要になった場合の対応まで、さまざまだ。現在、厚生連は33都道県(36厚生連)に設置されているが、14府県が未設置である。介護保険事業に取り組んでいるのは349JA。JA介護保険事業所数は1000カ所を超える。JAによるホームヘルパーの累計は12万人になっている。
しかし、地域によって取り組みの格差が大きく、JAグループ内での連携も必ずしも十分でない。このため、JAグループは保健、医療、介護が切れ目なく受けられる「地域包括ケアシステム」に取り組むことになった。同システムは健康づくり、医療、在宅ケア、リハビリテーションなどを一体的、体系的に提供する。広島県尾道市の医師会が主導して実践してきたため、尾道方式と呼ばれている。
同システムに取り組む場合、JAグループ内で保健・医療・高齢者福祉サービスが完結すれば、問題ないが、JAグループでは限界がある。このため、自治体や医師会、社会福祉協議会、その他民間事業者の連携が重要になる。強力な働きかけが必要になるし、地域での調整に時間がかかるため、実現までに紆余(うよ)曲折も予想される。
長野県の佐久総合病院の故・若月俊一名誉総長は「メディコ・ポリス(医療・福祉都市)構想」を提唱していた。同構想は保健・医療・福祉を核に地域産業を活性化し、若者の雇用創出、高齢者の生きがいづくり、地域再生を目指すものである。このように取り組み方によっては、経営に貢献するJAの新しい事業の創設にもなろう。現状の介護保健事業をみても06年度収支報告のあるJAは174が黒字で、155が赤字。事業運営によって黒字の可能性が強いとみるべきだ。
組合員の健やかな生活を守ることは協同組合の原点である。都市に比べ、サービスを享受しにくい地域の組合員に対して、新しいシステムの取り組みが期待される。