現在位置:asahi.com>社説 社説2008年03月08日(土曜日)付 日銀総裁人事―民主に問われる大局判断任期切れまで10日あまりとなって、次の日本銀行総裁を選ぶ手続きがようやく動き出した。政府が国会に示したのは副総裁の武藤敏郎氏だ。 参院で多数を握る民主党が反対すれば、この人事は流れてしまう。当分の間、日本の中央銀行のトップが不在になるという異例の事態になる。福田首相はそれを承知でカケに出た形だ。 この人事には国際的な関心も集まっている。もし挫折すれば、内外で福田政権がこうむる痛手は計り知れない。民主党も、対応次第では政権をうかがう党としての評価を地に落としかねない。与野党ともに正念場である。 武藤氏は、財務次官を戦後最長の2年半も務めた。銀行行政を担当したこともあり、バランス感覚と政界での人脈の広さに定評がある。弱みといえば、国際金融の経験が少ないことだろうか。 副総裁になって5年。福井俊彦総裁を忠実に補佐するイメージが強く、古巣の財務省や政治家の「意向」を感じさせる動き方はしなかった。日銀内部や金融市場では早くから次期総裁と目されてきた。「極めて順当な人選」というのが政府の考え方だろう。 焦点は民主党の対応だ。党内に根強い反対論は、おもに「財政と金融の分離」を理由にしている。武藤氏が財務省出身であることを問題にしているのだ。 「財政と金融の分離」は、バブル経済を生んだ反省から語られるようになった。金利の上げ下げを判断する金融政策が、財政当局や与党の意向に振り回されてゆがんではならない。つまり、日銀は政治の思惑から「分離」され、独立していなければならないというわけだ。 まったくその通りなのだが、独立を守れるかどうかは総裁の出自だけで決まるわけではない。欧米でも、財務省出身者が中央銀行トップに就くのは珍しくない。政治や財政の風圧を受けつつも、通貨の安定を守り抜く信念と実行力があるのかどうか。結局は、総裁候補の人物と能力から判断するしかないのだ。 今回の人事案は、与野党対立で国会が空転する最悪のタイミングで示された。 政府・与党は「日銀総裁の空白は絶対に許されない」といいながら、衆院で予算案などの採決を強行してこんな状況にしてしまった。わざわざ野党を刺激したセンスを疑わざるを得ない。 案の定、民主党の幹部からは採決強行を理由に「武藤氏を受け入れることは100%なくなった」との声が聞かれたが、これも行きすぎた発言だ。国会運営や政局で与党との駆け引きが大事なのは理解できるが、中央銀行のトップ人事をそうした思惑だけから考えるのは控えるべきだ。 同意しないのなら、それに値する理由を示さねばならない。せっかく与野党で合意し、総裁候補から所信を聞く仕組みを作った国会だ。じっくり吟味して、大局に立った結論を出してもらいたい。 代理出産―例外をどう決めるか夫婦の遺伝子を受け継ぐ子どもを、ほかの女性に産んでもらう。そんな代理出産を認めるべきかどうか。 政府からの依頼で検討していた日本学術会議の委員会は、法律で禁止すべきだとする報告書をまとめた。医学的、倫理的に問題が大きいというのが理由だ。営利目的で代理出産をあっせんしたような場合は処罰するとしている。 その一方で、代理出産以外に自分たちの子どもを持てない人たちがいることを考え、最後の手段として例外的におこなう道も残した。 さまざまな問題をはらむ代理出産は安易に認めるわけにはいかない。さりとて、生まれつき、あるいは病気などで子宮がなくなった女性にとっては、ほかに方法がない。全面禁止するわけにもいかないということだろう。 私たちはこれまで社説で、「原則的に禁じながらも、例外的に認める必要があるかもしれない」と指摘してきた。報告書の方向は妥当だと考える。 しかし、例外の扱い方については疑問がある。 報告書は、「試行的実施」としている。科学的なデータを得るための臨床試験として、子どもの成長過程を長期的に追跡し、どういう影響が出るのかをつかんだうえで、代理出産の是非を判断するというのだ。 「試行」というとらえ方には違和感がある。一人の人間が生まれるのだ。医療技術や薬の効能などを試すのと同じように考えるわけにはいかない。 どういう場合に例外として扱うかは、法律で条件を厳しく定めたうえで、個々のケースについては裁判所が判断するしかあるまい。 例外とするには、倫理的な面は別にしても、少なくとも次のような問題が解決されていなければならないだろう。 代理母を引き受けて妊娠・出産する女性の身体的、精神的な負担が過度なものになっていないか。生まれてくる子どもがきちんと育てられる環境にあるのか。出産した後、代理母と依頼者の間で子どもの奪い合いにならないか。 例外的におこなうとしても、代理出産は子どもの幸せを第一に考えなければならない。決して安易におこなわれてはいけないことを基本に据えるべきだ。 代理出産してもらった子どもを実子と認めるかどうかも悩ましい問題だ。民法に照らせば産んだ女性が母だ、というのがこれまでの最高裁の判断である。依頼した夫婦を実の親と認める余地がないのかについても議論を深めたい。 報告書は代理出産の原則禁止を盛り込んだ新たな立法を求めている。これから舞台は国会に移る。 生命の誕生にどこまで人の手を入れることを認めるか。難しい問題だが、子どもがどうしても欲しい夫婦の気持ちも考えつつ、どういう仕組みがいいのか、社会的合意を図っていきたい。 PR情報 |
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