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石田衣良氏が隔週連載でおくるR25読者へのメッセージ・エッセイ。

空は、今日も、青いか?

石田衣良=文
text IRA ISHIDA

中村 隆=イラスト
illustration TAKASHI NAKAMURA

2008.03.06

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Profile

いしだ・いら

1960年東京生まれ。成蹊大学卒業。著作に『池袋ウエストゲートパーク』(文藝春秋、オール讀物推理小説新人賞受賞)『4TEEN─フォーティーン』(新潮社、第129回直木賞受賞)『空は、今日も、青いか?』(日本経済新聞社)など。

第七十五回

国際テストの見栄っ張り

『5年3組リョウタ組』という、初めての学園小説を書いた。舞台は地方都市にある元名門公立小学校。そこで取材のために、いろいろな先生に会ったり、学校関係の資料を読んだりすることになった。

ぼくが驚いたのは、どの先生もひどくいそがしそうだったこと。それも実際の授業やその準備に割く作業ではなく、報告書やアンケートなど学校内のペーパーワークが昔にくらべてひどく増量しているのだ。ガッコのセンセはお気楽などというのは過去の話で、朝7時に登校して、帰りは夜10時。休日は繁華街をパトロールしたり、部活の顧問をこなし、夏休みだってなんだかんだと学校の用があり、実質的に休めるのは一週間ほどというのが、平均的な教師の姿だった。なんだか、教える側の先生にもゆとりがなくなっているなあ。大量のペーパーワーク(文書主義は役人の悪しき風習!)はどこにいくのだろう。それが取材を終えた感想だった。

そんなとき、また10年ぶりに学習指導要領の改定案が、文部科学省から発表された。小学校の授業を1割アップして、「基礎基本の知識を増やし、活用力を高める」のが目標なんだとか。まだゆとり教育の結果さえはっきりでていないと思うのだけど、180度の方針転換である。

なんでも、OECDが開催している国際学習到達度調査(PISA)での日本の成績が落ちているかららしい。3年ごとに実施される試験で、基本となる読解力は8位→14位→15位、数学的応用力は1位→6位→10位と連続して順位をさげたのだとか。国際試験の成績くらいどうでもいいと思うけどなあ。首位のフィンランドとは国のサイズも、教育に対する考えかたも違うし、日本人と比較して、かの国が抜群に知的能力が高いとも思えない。

実際にぼくも公開されている読解力の問題に目をとおしたけれど、これがけっこうな難問なのだ。普通の15歳にはなかなか解けないんじゃないかな(まあ、ぼくの場合自分の小説が入試問題になっても正解を間違えたりするので、あまり信用はできないけれど)。PISAは知識の量ではなく、その知識を実際の生活のなかで起きる問題にどう応用するかを試されるタイプの試験なのだ。こういう応用力というは、日本のお役人にはもっとも欠けていると思うのだけど、みなさんはどう感じますか。

今の小学生は、ほとんど塾にかよっている。さらにスポーツや音楽などの習いごとで、平日の放課後はほぼびっちり埋まっているのだ。遊びにいくときさえ、電話で予約をとりあい、疲れたときには子ども用栄養ドリンク(!)をのむ日々。売れているファミリー向け雑誌は、受験競争をあおるような品のない記事ばかり。こういう事態のなかで、10パーセント授業時間を増やすことに、果たして効果が期待できるのだろうか。

ぼくは『リョウタ組』のなかで、学年5クラスで競われる到達度試験というクラス競争の話を書いた。その試験でトップを狙って、子どもたち自身が暴走してしまうのが最終章のテーマである。5年3組のなかで、優秀な上位10人と学業不振な10人が対立していくのだ。25歳のリョウタ先生がだすこたえは、試験問題を破り捨て、近くの海辺に「総合学習」にでかけてしまうという極端なものだ。でも、ときには試験問題を破るくらいの蛮勇だって教育には必要ではないだろうか。

PISAの成績をあげたいというのは、はっきりいって国としての見栄っ張りである。実効性がはっきりしない試験に振りまわされるのではなく、目のまえの子どもたちをもっとよく見てほしい。ほら、働く大人の表情を映して、つまらなそうに曇っているから。

そちらのほうこそ大問題。

※「空は、今日も、青いか?」は隔週連載です。


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