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2008年3月8日

◎「日本史必修化」 対照的な石川、富山の反応 

 神奈川県教委が県立高校での「日本史必修化」を打ち出したことを受けて、開会中の石 川、富山県議会でも両県の対応をただす質問が出たが、反応は対照的だった。石川県の中西吉明教育長が「今の学習指導要領のままでは慎重な対応が必要」という答弁だったのに比べ、石井富山県知事は、神奈川と同様の取り組みの実施を前向きに検討する意向を示したのである。

 高校の地理歴史では現在、世界史が必修、日本史と地理は選択となっている。神奈川が 取り組む「日本史必修化」は、「郷土史」と、日本と世界の近現代について学ぶ「近現代史」という日本史系の二科目を創設し、地理を選択した生徒にはいずれかを履修させるというものである。生徒は必修の世界史のほかに、日本史、あるいは地理プラス「郷土史」か、地理プラス「近現代史」を履修し、何らかの形で日本史も勉強することになる。

 神奈川は、学習指導要領の改定に際して日本史を必修とするよう要請していたにもかか わらず、中教審がそれを見送る答申をまとめたため、独自の方法をとることにしたという。あくまでも学習指導要領を守った上での取り組みで、厳密に言えば日本史の必修化とは少し違うのだが、その意欲と工夫は十分に評価に値する。世界の歴史は必ず学ばなければならないのに、自国の歴史はどちらでもよいという現状には確かに違和感を覚える。石井知事が「県民から必修とするよう要望される機会が多い」というのも当然だろう。

 石川県議会でも高校での日本史の必修化を求める意見書が可決されており、同県教委も 必修科目について学校の裁量幅を拡大するよう国に要請した経緯がある。神奈川でいうところの「郷土史」については、同県教委が作成した教科書「ふるさと石川」を活用することによってカバーしているとはいうものの、独自の取り組みをもっと積極的に考えてもらいたい。

 富山県では、学識経験者やPTA関係者らでつくる「明日のとやま教育創造懇話会」な どで検討が進められる見通しである。まずは地方が行動することによって、そのうねりを国にも波及させていきたい。

◎司法試験合格者 増員をやめる必要ない

 司法試験の合格者を段階的に増やし、二〇一〇年度に三千人に増やすとした政府目標は 、当初の予定通り達成してほしい。弁護士などの法曹人口を拡大し、市民に身近な存在にするために、各地に法科大学院を開設してきたのである。弁護士会連合会などが、今ごろになって「過当競争になる」などと反対するのは身勝手過ぎる。

 鳩山邦夫法相は「訴訟社会になるべきではない」「合格者三千人は多過ぎる」などとし て、二〇一一年以降の見直しの検討を指示したが、弁護士の潜在的な需要は年々確実に高まっている。競争が激しくなれば、サービス向上の期待もできるだろう。三千人の増員をやめる理由は見あたらない。

 石川や富山など中部六県の中部弁護士会連合会は昨年、三千人増員計画の見直しを決議 した。弁護士が大幅に増えると、競争社会になり、質が低下するというのである。だが、全国で、配偶者、恋人からの暴力被害(DV)や多重債務、自己破産などの問題を抱える人はそれこそ膨大な数に上る。学校現場では、いわゆるモンスターペアレント対策のため、小中学校の支援に弁護士を雇う必要性まで論議されている。法の専門家が活躍する場は広がっているのに、実際に悩める人々の力になっている弁護士は、限られている。

 合格者を増やせば、質は低下するだろう。開業しても生活していけない弁護士が増える かもしれないが、法のスペシャリストは企業や行政でも必要としている。たとえ質が低下したとしても、市民と弁護士の間の垣根を低くし、気軽に弁護士を利用できる社会にした方が世の中のためになる。弁護士が実入りの少ない業務を嫌い、有力企業の顧問弁護士になりたがる風潮や裁判所に出入りしない弁護士が一流といわれる現状を変えていく必要がある。

 また、二〇〇〇年に弁護士広告が原則禁止から原則自由に切り替わったが、自分の得意 分野などを積極的に依頼人にアピールする努力を十分しているのか、はなはだ疑問だ。首都圏などでは、ようやく法律事務所の広告を見かけるようになってきたが、弁護士がサービスを競い合うのは決して悪いことではなく、好ましい変化の方向だろう。


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