「銀行建築」という言葉がある。重厚で威厳に満ちた外観が特徴で、原点は東京日本橋の日本銀行本店旧館にある 欧州の中央銀行をモデルに一八九六(明治二十九)年完成した。近代国家日本の威厳を諸外国に示し、国内向けには金融総本山としての重厚さを誇示する建物だった。設計は日本近代建築の父と呼ばれる辰野金吾である 設計図を見た当時の首相、山県有朋が「文字通り、城じゃな」と感心し「反乱軍が攻めてきても、外国軍が来襲しても一週間は持ちこたえる」と、元長州奇兵隊らしい感想を漏らしたと言われる堅牢さだった(辰野金吾伝・東秀紀著) 以来百十余年、平成の世では建物よりも中身が問題である。が、現総裁の任期切れ直前に新総裁人事案が示される体たらくだ。加えて、日銀人事が政争の具と化し、野党は攻撃開始態勢というのだから「城主」がいないまま国際金融市場の激戦に日本を放り出すつもりだろうか 経済大国の威厳も何もあったものではない無謀な作戦には、一世紀前の指導者らが抱いた気概も、歴史認識もうかがうことができない。政治家の劣化、国民を守る志のなさと言うしかない。
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