COLUMN-〔インサイト〕日本変革のカギ握る政策当局と企業リーダー=Mスタンレー フェルドマン氏
内外の投資家と話すと、日本が全く話題にならないわけではない。だが、日本に関する興味の中身が変わったように思う。2003年から2006年までは「改革する日本」、「不良債権を克服する日本」だったが、最近は、「米国、欧州で深刻化してきたサブプライム問題は、日本の失われた10年とどこが似ていて、どこが似ていないか」になった。すなわち日本は、博物館に置かれている恐竜のようで、どういうものだったのか、なぜ絶滅したのか、という位置付けの話しになっているのだ。
<投資家が日本を見切り売りした理由>
「外国人投資家が売っているから日本株が下がっている」とよく聞く。これは半分真実で半分はうそである。確かに海外投資家のほとんどが、日本をアンダー・ウェートにしている。だが、大幅な株高現象を伴った1980年代後半も外国人投資家が日本株をアンダー・ウェートにしていた。すると、今の株安は、外国人が売っている理由に加え、邦人が買っていない理由も考えないといけない。
同じ理由である。一言でいうと、日本のマクロ改革もミクロ改革も逆戻りをしているからである。この傾向は、すでに小泉純一郎政権後半の与謝野馨経済財政・金融担当相時代に遡るが、安倍晋三政権になって加速し、福田康夫政権になってさらに加速した。
<日本売りを加速させた道路財源の議論>
道路財源問題は、内外投資家に悪影響を与えた。小泉政権のとき、道路族(自民党も民主党も)のビジネス・モデルである道路汚職、無駄遣いを直す動きが始まった。20兆円の費用がかかる道路計画を見直して、10兆円に抑えて道路公団の改革を行った。
だが、道路財源問題は残った。福田政権になって、福田首相は一般財源化に関して「慎重に検討する」(「やらない」という意味に解釈できる)と述べた。当然、内外の投資家は失望した。
<経済学、ビジネスを知らない裁判官の影響>
TOB(株式公開買い付け)に関する裁判所の判決も、内外投資家の日本に対する信頼を落とした。会社法の改正によって、ようやく効率の悪い経営者に対する圧力が増すものと思った投資家は、判決をみて、保身経営は許されるとわかった。
加えて、株主たち自身が旧経営がいいという例もあったので、本来価値が潜在している日本の企業は、いつまでもその価値を実現できない状態が続くとわかった。日本企業の役員会はビジネスではなく、カントリー・クラブであるという印象は免れ得ない。日本ブランドが悪くなった結果、ガバナンスがしっかりしている企業も当然評判が落ちた。
<日銀総裁の選択劇>
日銀総裁の選択方法も投資家の反感を買った。原稿執筆時点では、武藤敏郎元財務事務次官(現日銀副総裁)、日銀から1人、民主党が選ぶ1人がそれぞれ総裁と二人の副総裁になる確率が高い。すなわち永田町と霞が関のインサイダーたちで自分の都合によって決めて、どのような人が日本にとって適材適所かを考えない選択である。
武藤さんは大蔵省時代、強力な役人であったが、マクロ経済の知識も疑問視され、金融業界で仕事をしたこともなく、投資家の間では金融政策の理解に関して評判は高くない。国際交渉とじん速なコミュニケーションのために不可欠な英語力に関してこと足りるのかと国会議員の中で指摘する声も出ている。なのに任命する福田首相、国会同意人事の命運を握る小沢一郎・民主党代表は旧来の選び方を優先しているようにみえる。日銀総裁の選択が「財務省、日銀」の交代に戻って、日銀は財務省の天下り先に過ぎないと投資家が当然思うのは仕方がない。
<とどめを刺した北畑発言>
経産省の北畑隆生事務次官による1月24日のスピーチでの発言が、とどめを刺したと言える。デイトレーダーのことを「バカで浮気で無責任」と批判したと一部で報道された。投資ファンドを名指して「バカで強欲で浮気で無責任で脅かす人というわけですから、7つの大罪のかなりの部分がある人たち」との発言も伝えられた。
経営者の保身を楽にする議決権のない株を作る案を出した経産省次官が、金融商品、企業統治の基礎知識がないことがばれただけではない。世界の投資家がこの発言の報道を読んで、政府高官がこのようなことを言うなら日本株を持つ理由がない、との結論に達した。日本に対する失望感が一層悪化した。柳沢伯夫前厚生労働相の「赤ちゃんを産む機械」発言、久間章生元防衛相の長崎原爆投下に対する「しょうがない」発言で当事者をかばった安倍政権は投資家が横目で見始めたが、北畑発言を許している福田政権に対しては、投資家があきらめる可能性が高い。
<望みの道は地獄へも行く>
日本ブランド力の低下からの脱出方法はあるか。シナリオは確かに描けるが、総選挙後の政界再編はあっても、よくなるシナリオも悪くなるシナリオもある。政策哲学で政界再編が起こり、ニュー・ライト(前原誠司氏、小池百合子氏などのような人)、オールド・ライト(福田首相、小沢代表)、オールド・レフト(横路孝弘氏、古賀誠氏)が形成される。
1つのシナリオはニュー・ライトがかなり多くの議員を抱え、主導権をとり、オールド・ライトと連立を組む。守旧派は連立にいても、彼らは残飯で我慢するか絶滅になるかの選択なので、穏やかにならざるを得ない。主導権はあくまでもニュー・ライトだから、政策的に、これはターボチャージの小泉流の政権になる。経済活性化、積極外交によって、日本ブランド力が戻り、日本株も人気が沸く。
もう1つのシナリオは大連立である。ニューもオールドもレフトもライトも主導権が取れない場合は、大連立になる。結果として、戦っているふりをする福田・小沢暗黙連立政権と変わらない。政策は逆戻りが続き、株価もじり安。
最後のシナリオは、ニュー・ライトは集まらず、オールド・ライトとオールド・レフトが連立を組む。これは、村山・橋本政権の二の舞になる。国民が民主主義的な方法でこの選択をするなら、金融界がそれを認めざるを得ないが、結果として経済の活性化は当面、絶望的になる。株価は当然弱含むし、財政再建も期待できないので長期金利が上昇し、負債スパイラルになる可能性が出てくる。
これらのシナリオを考えると、内外の投資家は、政策の改善、企業統治の改善を期待するだけで日本株を買うことはない。日本が変わった証拠を待つ。お鉢が日本政策当局と企業リーダーに回ってきた。
ロバート フェルドマン モルガンスタンレー証券 経済調査部長
(27日 東京)
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