任期満了に伴うスペイン下院選挙(定数350)は9日(日本時間同日)投票され、10日未明に大勢が判明する。4年前の総選挙では投票日直前にマドリード列車同時爆破テロが起き、イラク戦争に反対した左派サパテロ社会労働党政権が勝利を得た。今回は昨年末からの不動産バブル崩壊を受け、右派野党・国民党が経済で攻勢に立つと見られたが攻め切れず、最新世論調査では与党優勢が鮮明となっている。【マドリードで福井聡】
最新の支持率調査によると▽社会労働党42・9%▽国民党38・8%で、差は選挙戦中盤の2ポイントから4ポイントへとやや開いている。3日に行われたサパテロ首相、ラホイ国民党党首のテレビ討論後、複数の調査が「討論では20ポイント近くの差でサパテロ氏優位」と発表した。スペインはここ数年3%以上(07年は3・8%)と欧州連合(EU)平均2・7%を大きく上回る経済成長を達成してきたが、昨年来の不動産バブル崩壊で、08年は3%を切るとも見られている。
ラホイ氏は「わが党が政権を奪取すれば生活水準はよくなる」と景気浮揚を強調するが、サパテロ氏は「スペイン経済は他の欧州諸国よりずっと堅調で、不況は一時的」と反論する。
スペインは北部バスク地方の分離・独立運動によるテロで、過去40年間に800人を超える死者を出している。司法当局は選挙前に独立強硬派につながる政党の活動停止命令を出した。与党は対テロで「強硬姿勢を保っている」としているが、国民党は「政府は弱腰」と批判する。ただ、独立は難しい情勢で、テロも漸減しており、独立・テロ問題への関心度はやや低い。
与党は4年間に不法移民を合法化したほか、同性愛者の結婚を認めた。保守的だったスペイン社会を大きく変え、若年層の支持を得てきた。このため、棄権率が高いとされる若者の投票率が勝敗の鍵を握ると見られる。
◇国民、不況に実感薄く--ラファエル・ドバド教授(経済史)
総選挙の争点についてコンプルテンセ大(マドリード)のラファエル・ドバド教授(経済史)に聞いた。
--北部バスク地方独立運動の見通しは。
◆バスク住民の過半数は独立を実現可能とは考えず、スペイン政府との交渉を優位にするため独立運動を利用しているように見える。バスク経済には他地域との相乗効果が重要だが独立派はその点を冷静に見ない。非合法武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)は真剣に独立を希求しているが、彼らの武力は弱体化しており、それに伴って強制徴収してきた「革命税」も漸減している。バスク地方は例外的に独自の税徴収を認められており、これ以上の自治権拡大はない。サパテロ政権は独立も武力闘争も認めず、ETAの衰弱を図るほかない。
--経済で右派が攻め切れない理由は。
◆最近、不況となったばかりで、多くの国民は深刻に受け止めていない。一方、移民の就職が難しくなっている。スペイン人労働者の移民への不満も、爆発には至っていないが高まっている。新政権は移民問題に直面するだろう。
毎日新聞 2008年3月8日 東京朝刊