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「プライバシー権」は認めてはならない

住基ネットについて、最高裁は合憲判決を出した。今回の判決でもっとも重要なのは、最高裁がプライバシー権を否定したことだ。くわしいことは論文に書いたが、プライバシー権とは、他人の表現をコントロールする権利であり、表現の自由を侵害する権利である。もしこれが認められたら、たとえば政治家のスキャンダルを暴く記事に対して、彼は「私の名前(個人情報)を削除しろ」と求める権利をもつことになる。

厳重に秘密を守っている住基ネットがプライバシー権の侵害だとしたら、私の名前を入力しただけで98万件も個人情報が出てくるグーグルは、明らかにプライバシー権を侵害している。私がグーグルに対して「私の名前をいっさい表示するな」と訴訟を起したら、勝てるだろう。ウェブには、膨大な個人情報があふれている。それを規制することは不可能であるばかりでなく、表現の自由を定める憲法に違反する。(*)

しかも個人情報保護法では、新聞など4業種だけを例外にして、インターネットは規制の対象にしている。各紙とも最近はこの問題点に気づいて、冷静な報道をしているが、例によって毎日新聞だけは「自己情報コントロール権」を主張している。これを書いている臺宏士記者に、私が「なぜ報道機関だけがプライバシーを守らなくてもいいのか。インターネットに表現の自由はないのか」と質問したら、彼は言葉に詰まって「あとで答える」と言ったきりだ。

住基ネットの問題は、以前の記事でも指摘したように、それが危険なことではなく、役に立たないことだ。この記事を書いてから1年以上たっても普及率は1.5%。おまけに、いろいろな行政サービスの電子化が住基カードを前提にしているので、e-Taxのように使いにくく、普及しない。住基カードは廃止し、背番号は納税者番号や社会保障番号にも使ってはどうだろうか。

憲法を改正するときプライバシー権を入れるべきだという議論があるが、これは表現の自由を侵害し、憲法の中に矛盾を持ち込むものだ。ましてマスメディアをその例外にしてインターネットを差別するプライバシー権は、絶対に認めてはならない。

(*)プライバシー権が違憲だというのは、Posnerが25年前に指摘し、アメリカの法学界では通説だ。アメリカでプライバシー権と呼ばれるのは、公文書の開示に関する限定的な規定である。
コメント ( 7 ) | Trackback ( 1 )
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コメント
 
 
 
いつものイナゴです (tanakaken2008)
2008-03-07 16:12:35
住基ネットが普及しないのも
eTaxが普及しないのも
答えは簡単で「とにかく面倒」なんです
どっちも「無くてもいい」のに手間ばかりかかるので人が寄り付きません

eTaxは確定申告シーズンになると税務署が専用会場を設けて
係員(と言っても臨時のバイト)と一緒にパソコンを操作して作業したりしてますが
手順を簡略化するのが目的なのに逆に複雑化しています
しかもその作業は凄い順番待ちが発生します

でもeTaxはまだいいほうで住基ネットは目もあてられないですね
本当に不必要です
何のために反対多数のシステムの設置を強行したのか未だに意味不明です

住基ネットも考え方の基本は間違って無いと思いますが
分散型RDBMS構築のノウハウどころか、専用線とインターネットの違いすら把握してないようなド素人に丸投げするからこういう事になるんでしょうね

聖域無き構造改革が聖域の中で行われてるってとこでしょうか
しかもその結果、増税につぐ増税とか、政治家が低脳揃いで腹立たしいですね
 
 
 
身分証はウインウイン (bobby)
2008-03-07 17:44:09
香港で20数年間、背番号の付いたID CARD(身分証)を使い続けています。常時携帯義務は、最初は面倒と思いましたが、すぐにいろいろ便利な事に気づきました。身分証は写真入りなので、銀行の窓口で本人確認をするときに、サインとペアで、本人詐称をかなり防げます。税金の申請は身分証番号で問い合わせできます。いまはスマートカード化して、香港の入出国は電子通関による無人通関になっています。
上記指摘にもありますが、日本も住基カード1枚で、いろいろ便利になれば、すぐに普及すると思うのですがね...
 
 
 
gooIDを不要にしました (ikedanobuo)
2008-03-07 17:46:03
承認制に戻したので、この記事からgooIDなしで投稿できるようにします。

実は、gooIDは記事ごとに設定しないとチェックできないという欠陥があり、過去の記事はスルーになってしまいます。goo事務局に、この欠陥を修正するよう要請したのですが、「検討します」というばかりなので、gooIDを使うのはやめました。
 
 
 
Unknown (ひでき)
2008-03-07 19:03:14
たまたま某金融機関の話を聞きました。「個人情報」と呼ばれるものを守るために、仕事の進め方に根本的な支障を来すような規定をしいているようです。いわく、「顧客の名刺をもっていてはいけない」。いわく、「顧客の名前の入った携帯は持ち出してはいけない」。いわく、「手帳は家に帰るときはもちろん、紛失する可能性があるので客先にいくときも事務所においていかなければならない」。

「民主主義」というアヘンによってむしばまれた「自分たちに危害を加えるものに対する理由のない恐怖」にのみ追い立てられる末路を感じます。
 
 
 
プライバシー権を否定してないのでは (藤島恵)
2008-03-07 23:14:04
リンク先によると「憲法で保障された個人に関する情報をみだりに第三者に開示されない自由を侵害しない」とあるので、プライバシー権を否定してはいない。否定したのはプライバシー権侵害の事実ではないか。
 
 
 
ある弁護士の話 (ikedanobuo)
2008-03-07 23:33:33
個人情報保護法は、完全に守ることは不可能な法律だ。かつての生命保険の支払いのように、政府が法律の基準を厳格に運用したら、すべての企業が違法になる。だから結局、適用できない法律になってしまった。

法案のできる前に、そんな法律はつくるべきでないと言っていたのは、池田さんと私を含む数人だった。しかし今は、すべての企業の法務担当者が、何とかしてほしいと言っている。それなのに、行政は見てみぬふりをしているだけ。そのうち、だれかが検索エンジンを訴えるとか、とんでもない事件が起こったら、大パニックになるのではないか。
 
 
 
保護にお金を掛けるより (へたれエンジニア)
2008-03-08 00:20:03
個人が企業に売るようにすればいいのではないかなと.無料で入手してるから軽率に流出させちゃうし,金券配って終わりなんていうぬるい解決で済ませちゃう.
 
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