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社説:薬害エイズ 無責任な官僚を一掃する好機

 薬害エイズ事件で、エイズウイルスに汚染された非加熱製剤の回収の指示を怠り、投与された肝機能障害の患者をエイズで死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた元厚生省生物製剤課長の有罪が、最高裁の上告棄却で確定する。

 最高裁は、すべきことをしていれば被害者を死なせずに済んだ、と元課長の不作為責任を指弾した。危害発生を防止する立場にいながら危険な非加熱製剤を放置したのだから、当然の断罪である。

 血友病患者に対する事件は投与時期の違いなどから無罪が確定したが、被害発生のメカニズムに変わりはない。上告棄却決定で、一連の事件が防ぎ得た人災であったことも再確認された。薬害の恐ろしさ、被害者の痛みや無念さを改めてかみ締めずにいられない。

 薬害に限らず、公務員の事なかれ主義に根差した事件は多いのに、官僚の不作為による有罪が確定するのは初めてというのも、考えてみれば妙な話だ。頻繁な人事異動に伴う職責の交代や重層的な決裁システムの中で、個々の公務員の責任の所在があいまいにされてきた証左と受け止めたい。

 その結果、官公庁に無責任体質がはびこり、不作為によるトラブルが繰り返されてきた。それなのに、「公務員は無〓(むびゅう)」とする暴論が幅を利かせてきたのだから、人々の官公庁に対する認識や“お上意識”には思い込みや誤解があったと言わざるを得ない。

 あしき体質を改めるには、個々のケースごとに担当者の責任を明確にし、逸脱があれば懲戒処分を行ったり、刑事責任を追及するしかない。その意味で元課長の有罪確定は全国の公務員に衝撃を与えることは必至で、覚せいを促す効果も期待できるかもしれない。

 だが、往々にして幹部の意向や政治家の横やりで決定が覆される官僚機構の特質を踏まえれば、立証しやすい担当者の責任だけを問題にしていたのでは尻抜けだ。今回の事件でも、旧厚生省から元課長だけが起訴されたことに疑問なしとしない。元課長がスケープゴート扱いされたせいで、上司らの関与が未解明に終わったのは悔やまれる。

 生活保護を打ち切って受給者を死に追いやった市職員の責任、逆に暴力団員への不当な支給を続けた責任、犯罪被害の訴えを放置して被害を大きくした警察官の責任……などなど。公務員の不作為や不誠実な対応は行政への不信を増幅させ、人々に反感と失望を与えてきた。

 最高裁決定を機に、公務員の事なかれ主義と無責任体質を一掃したい。政府は懲戒制度の見直しなどの対策に本腰を入れるべきだが、政策決定過程の透明化を図り、同時に利権目当ての政治家の口利きを封じる手立ても講じなければならない。現場の公務員を萎縮(いしゅく)させないように注意することが重要だからだ。

毎日新聞 2008年3月6日 0時16分

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