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薬害エイズ有罪 官僚の責任は免れない '08/3/6

 薬害エイズ事件で、国の行政担当者の刑事責任を認める画期的な判決が確定した。業務上過失致死罪に問われた旧厚生省の生物製剤課長だった松村明仁被告(66)の上告を棄却した、おとといの最高裁決定である。

 エイズウイルス(HIV)が混入した輸入非加熱製剤の危険性を知りうる立場にありながら、医療現場に周知したり、使用中止などの措置を講じたりしなかった「官僚の不作為」を、厳しく断罪したといえよう。

 非加熱製剤の投与継続で、感染の拡大が予見できたのに、回収や販売中止などの注意義務を怠った。その結果、一九八六年四月に非加熱製剤を投与された患者を死亡させたと認定した。

 千四百人以上が感染し、約五百人が死亡した薬害エイズ事件は、産(製薬企業)、官(行政)、学(専門家)の三者による「複合薬害」といわれる。とりわけ、医療現場や製薬業界を指導・監督する立場にあった旧厚生省の責任が大きいのは当然だ。

 その上で、上告審の焦点となったのが、行政の不作為に対して、官僚個人の刑事責任を追及できるかという点だった。

 民事訴訟の場合、公務員に過失があっても、個人に対する賠償請求はできない。にもかかわらず、松村被告の刑事責任を認めたのは、旧厚生省以外に具体的な薬害防止の措置を取りえなかった点を重視したのだろう。

 最高裁は「旧厚生省で製剤のエイズ対策の中心的役割を果たし、大臣を補佐して薬務行政を一体的に遂行すべき立場にあった」と判断。薬務行政上の義務に加え、刑事法の上でも注意義務があったとし、弁護側の無罪主張を退けた。

 一方で、「課長だけが責任を問われるのはおかしい」という不満が厚生労働省の内部にくすぶっていると聞く。上司や同僚も責任の一端は免れまい。問われているのは組織全体の在り方である。

 事件後も薬害被害の訴えは後を絶たない。薬害肝炎問題では先月末、血液製剤フィブリノゲンを投与された三千八百五十九人分の追跡調査資料が放置されていたことが明らかになった。官僚が責任をあいまいにする体質は、いまだに変わっていないのではないか。

 薬務行政の担当者に初めて刑事責任を認めた最高裁の判断は重い。あらためて厚労省は反省し、国民の生命と安全を守る責任を職員一人一人が自覚してほしい。




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