薬害エイズ事件で、最高裁は業務上過失致死罪に問われた元厚生省生物製剤課長に対して禁固一年、執行猶予二年とした高裁判決を支持し、元課長の上告を棄却する決定をした。
決定は、元課長が輸入非加熱血液製剤を投与された患者のエイズウイルス(HIV)感染や死亡を予測できたのに、販売を中止させるなどの注意義務を怠り、一九八六年四月に投与された患者を死亡させたとしている。
最高裁が断罪したのは、適切な対応をとらなかったという官僚の不作為である。薬害エイズでは、感染が拡大し、亡くなった人も多い。
決定は、当時広く使用された非加熱製剤にはHIVに汚染されたものが相当あったと判断し、また「製剤は国によって承認が与えられた」と指摘した。そのうえで「国が販売中止など明確な方針を示すべきだった」と国の責任の重さを強調した。
元課長は「同僚や部下、上司と協力して業務を遂行した」と個人責任の追及を批判し、無罪を訴えた。決定は、非加熱製剤が生物製剤課所管であることから、元課長はエイズ対策に関し中心的立場にあり「必要で十分な対応を図るべき義務があった」と、元課長の主張を退けた。
行政が安易に強制的な監督権限を行使すれば、規制が強まりすぎて弊害を招こう。決定は、重大な危険の存在が認められ、防止のために具体的義務が生じたときには許容され、担当者の怠慢に対し刑事責任を追及できるとした。
官僚が心すべきは、国民の命にかかわる職務の重さと、高度の注意義務だ。司法の指弾に、一人一人が自覚と組織全体での緊張感を高めなければ、悲惨な薬害を断ち切ることはできまい。